研究課題/領域番号 |
15H04366
|
研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設) |
研究代表者 |
飯野 亮太 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設), 岡崎統合バイオサイエンスセンター, 教授 (70403003)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 分子モーター / 1分子計測 |
研究実績の概要 |
これまで1分子計測に用いていたEhV1の試料には、精製用にFサブユニットに追加したアミノ酸残基や、ビオチン化のためにDサブユニットに追加したアミノ酸残基が存在していた。本試料の回転運動の1分子計測では、回転子DFサブユニットの重心位置が大きく揺らぐアンクリア回転が観察されていた(Minagawa et al JBC 2013)。これらの追加した配列を除去した試料調製法を新たに確立した結果、アンクリア回転は見られなくなり、回転の挙動が安定した。DサブユニットやFサブユニットに追加したアミノ酸残基が回転子DF複合体および固定子A3B3リングとの相互作用を不安定化することがアンクリア回転が観察される原因と考えられた。 次に、追加のアミノ酸配列を除いた新たな試料で高速1分子計測を行い、回転運動の解析を行った。その結果、X線結晶構造解析から予想されていた120度ごとの回転ステップに加え、一過的な短い停止(中間状態)が存在することが明らかとなった。これは予想外の新たな発見であり、これまでに考えられていたEhV1の化学力学共役スキームの大幅な改訂が必要となった。現在、この中間状態がATP加水分解反応の素過程(ATP結合、リン酸結合の開裂、反応生成物ADPおよび無機リン酸の解離)のどれに対応するのかを詳細に調べている。 また、ATP加水分解反応の遷移状態を安定化し、リン酸結合の開裂を加速すると言われているアルギニンフィンガーに変異を導入し高速1分子計測を行った。その結果、1.ATP高濃度では一気に240度回転する、2.高濃度のADP存在下では頻繁に120度バックステップする、という特異な回転挙動が観察された。現在、これらの挙動が化学反応とどのように共役しているのかを詳細に調べている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
EhV1のサブステップの発見という予想外の結果が得られたため、EhV1の1分子計測に集中していたが、おおむね順調に進展しているといえる。今年度はEhVoV1の1分子計測にも取り組む。
|
今後の研究の推進方策 |
1.EhV1の化学力学共役スキームの解明:EhV1にはサブステップが存在するという予想外の知見が明らかになり、これまでに考えられていた化学力学共役スキームの大幅な改訂が必要となった。そこで本年度は、金ナノ粒子をプローブに用いた高速1分子計測、および蛍光性ヌクレオチドの結合・解離と回転の1分子同時計測で野生型、アルギニンフィンガー変異体、およびそれらのハイブリッド分子の観察を行い、化学力学共役スキームの全貌を明らかにする。 2.VoとV1の共役機構の解明:可溶化したEhVoV1を用いATP加水分解駆動の回転を観察する。回転速度のNa+濃度依存性を計測し、生化学測定でみられている二段階の活性化の原因を探る。またNa+濃度が十分に低い条件では、36度(360度/10)間隔の停止を伴う回転が観察されると予想される。角度分解能改善のため、金ナノ粒子の重心解析による高速回転計測だけでなく、金ナノロッドの配向解析を用いた高角度分解能の高速回転計測も適用する。Na+濃度を振り、停止の持続時間の分布を測定して律速過程の数を決定する。また、バックステップが観察されるか検証する。次に、Na+濃度だけでなくATP濃度も下げATP結合待ちの停止時間を長くする、もしくは変異体やATPγSで加水分解の停止時間を長くすることでEhV1の120度間隔の停止を顕在化させ、EhVoV1複合体の停止が何ヵ所になるのかを計測する。
|