腸内連鎖球菌由来のV1-ATPaseの化学力学共役機構を解明した。金ナノ粒子を回転可視化プローブに用いた高速1分子解析を行った。その結果、3つの触媒サイトに対応する120°毎の停止(メインポーズ)のあいだに存在する短い停止(サブポーズ)を初めて発見し、120°のステップは 40°と 80°のサブステップに分かれることを見出した。メインポーズの停止時間から、ATP低濃度(ATP 結合が律速となる条件)で 1つの ATP 濃度依存的な時定数(結合速度定数1.0×107 M-1s-1)が得られたため、ATPはメインポーズの間に結合することが示された。また、ATP高濃度のメインポーズで2つ(時定数0.5msおよび0.7 ms)、ATP濃度に関係なくサブポーズで1つのATP濃度非依存的な時定数(2.5 ms)が得られた。これら3つのATP濃度非依存的な時定数は、ATP解裂、ADP解離、リン酸解離に対応すると考えられた。ATPγSやADPを用いた1分子解析より、ATP解裂がメインポーズで、ADP解離がサブポーズで起こることを示した。また、ATP加水分解反応の残りの素過程であるリン酸解離は、残り1つのメインポーズの時定数に対応すると結論した。本研究で得られた知見と先行研究のX線結晶構造解析の結果を合わせ、V1-ATPaseの化学力学共役機構のモデルを提案した。現在は、蛍光性ATP結合解離と回転運動の1分子同時観察、および野生型と変異体のハイブリッドの1分子回転観察を行うとともに、原著論文の作成を進めている。
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