研究課題
細胞分裂期の初期に染色体が紡錘体の赤道面に整列することは、その後染色体が娘細胞に均等に分配されるために必須である。本研究では染色体が安定に維持されるしくみについての応募者らのこれまでの研究をふまえ(H24~H26基盤研究(B), EMBO J, 2011, Nat Commun, 2015)、染色体の効率的な整列の機構とその染色体安定性維持への寄与について明らかにすることを目的とする。平成27年度には以下のような成果が得られた。1.側面結合の分子機構の解明 側面結合に関係する分子を同定するために、キネトコアに局在する分子のうち微小管結合能をもつものを末端結合に必須の分子であるHec1と共に発現抑制し、染色体が紡錘体から離れてしまうものを検討した。その結果、モーター分子ダイニンのキネトコア局在に必要なZw10をHec1と共に発現抑制すると、紡錘体から染色体が離れてしまう細胞の割合が増加した。このことからダイニンが側面結合に関与することが示唆された。また側面結合時のキネトコアと微小管の結合を詳細に観察するために、蛍光顕微鏡での画像取得後に電子顕微鏡観察を行うCLEM(correlative light and electron microscopy)法の条件検討を行った。その結果キネトコアと微小管の構造を観察するのに適当な条件が得られた。2.染色体整列の機構の解明 側面結合している染色体が紡錘体中央に整列する機構として、キネトコアに局在するモーター分子CENP-Eと染色体腕部に局在するモーター分子Kidが、紡錘体の形成にともなって共同して染色体整列に関与することを明らかにした(Nat Commun, 2015)。またキネトコアに局在する微小管結合因子CLIP-170が、ダイニンのはたらきに対抗してキネトコアを微小管先端につなぎとめることで、側面結合から末端結合への変換に寄与する可能性が示唆された(FEBS Lett, 2015)。
2: おおむね順調に進展している
側面結合の分子機構の解明に関しては、側面結合に関する分子として、モーター分子ダイニンおよびそのキネトコア局在に関与する分子を同定した。これまでダイニンが微小管に沿った染色体の移動にはたらくことは知られていたが、ダイニンが側面結合そのものにも関与することが示された。また側面結合時のキネトコアの構造、微小管との結合の状態を電子顕微鏡で詳細に観察するための手法も確立することができた。染色体整列の機構の解明に関しては、側面結合している染色体が紡錘体中央に整列する機構として、モーター分子CENPとKidの共同作用を明らかにすることができた(Nat Commun, 2015)。また微小管結合因子CLIP-170がダイニンのはたらきを抑えていることを見いだし、CLIP-170が側面結合から末端結合への変換にはたらいている可能性を示すことができた(FEBS Lett, 2015)。これらの成果から判断して、本研究課題はおおむね順調に進展していると考えられる。
平成27年度の成果をふまえ、平成28年度には以下のような実験を行う。1.側面結合の分子機構の解明 平成27年度に引き続いて側面結合に関与する分子の探索を行う。またこれらの分子の発現を抑制した場合のキネトコアの構造や微小管との結合の状態を電子顕微鏡を用いて観察する。2.染色体整列の機構の解明 紡錘体に局在するモーター分子などの発現抑制により、迅速な染色体整列に異常をきたすものを同定する。またこのような分子の発現抑制により染色体不安定性がひきおこされるかどうかを、染色体分配異常の頻度によって評価する。3.側面結合から双方向性結合が形成される機構の解明 分裂期の様々な段階の細胞をCLEM法で選び、側面結合から末端結合への移行過程を電子顕微鏡で観察する。また分裂前中期にキネトコアに局在する分子について、発現抑制により末端結合が形成されにくく、側面結合が増加するものを同定する。このような分子の発現を抑制した細胞でのキネトコアの状態を電子顕微鏡で観察する。4.効率的な染色体整列と染色体安定性の関連の解明 効率的な染色体整列に関与する分子を発現抑制した場合の染色体不安定性を、1)染色体分配異常(lagging chromosome, chromosome bridge)の割合、2)間期細胞における微小核(micronuclei)の出現頻度、3)Chromosome spreadによる染色体数の変化の評価、などによって検討する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 6件、 招待講演 2件) 備考 (2件)
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