研究課題
3つの具体的な研究項目について、以下の研究実績を得た。① 鳥類特異的な保存形態(3本指、風切羽、寛骨)の発生メカニズムの解明に関しては、おもに解析対象の形態の解析を行った。とくに風切羽形態の形成に関しては、他の大羽と異なり胚発生中から形成されている可能性が新たに考えられるようになったことから、羽毛形成に関わる遺伝子および胚発生期の肢芽の軸形成に関わる遺伝子に関して、胚発生中の羽毛原基における発現状態を詳細に解析を行った。その結果、風切羽形態の形成時期やその肢芽の軸に対する詳細な位置が明らかとなった。② 鳥類特異的なゲノム保存配列を元にした、特徴的形態制御配列の同定に関しては、鳥類特異的ゲノム配列として同定されたSim1遺伝子近傍の配列について、Sim1遺伝子のニワトリ特異的な発現がこの配列に制御されるかどうかを確かめた。ニワトリ胚へのエレクトロポレーションによるエンハンサー解析の結果、この配列がSim1遺伝子の鳥類特異的な発現を駆動することが明らかとなった。また、同じ配列に関するエンハンサー解析をマウスでも行い、マウスにおいても、鳥類特異的な(マウスでは発現しない)Sim1遺伝子の発現領域と同じ領域でエンハンサー活性が活性化されることが明らかとなった。③ 保存形態の喪失メカニズムの解明に関しては、ペンギンの第1指の喪失メカニズムに関して、ペンギンの第1指形成期における肢芽の形態と四肢骨格パターンの形成に関わる遺伝子発現について詳細に解析し、ペンギン胚においては、特定の時期に第1指近傍で肢芽先端部の外胚葉性の肥厚(AER)が退縮する現象が見られることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
当該年度においては、風切羽形態の形成に関しては、当初見込みに反して胚発生中の早い時期から形成されている可能性が出てきたことから、より詳しく解析を行うために研究計画の一部を変更し、一部研究費を繰越して追加の解析を行った。この変更は当初予期されたものではなかったが、詳しい解析をした結果、鳥類特異的保存形態である風切羽の形成が他の羽毛と比較しても特殊性が高いこと、さらにその特殊性が胚発生期の肢芽の形態形成と関わっていることなどが明らかとなり、当初の予想を上回る興味深い成果が得られた。また、他の項目に関しても、一部の細かな修正はあるもののほぼ計画通りに研究は進捗しており、おおむね順調に進展しているとの自己評価とした。
① 鳥類特異的な保存形態の発生メカニズムの解明に関して解析対象である鳥類前肢の3本指に関しては、③ 保存形態の喪失メカニズムの解明で解析を行っているペンギンの2本指の形態形成メカニズムと合わせて、一度成果をまとめて論文を作成する予定である。また、胚発生期における風切羽形態の形成メカニズム、寛骨の形成メカニズムに関しても、主要なデータはほぼそろっており、論文の投稿準備を進めている。② 鳥類特異的なゲノム保存配列を元にした、特徴的形態制御配列の同定に関しては、鳥類特異的エンハンサーとして同定したSim1遺伝子近傍の調節領域の解析を中心として、鳥類の大進化における鳥特異的なシス制御領域の役割について考察した論文を平成28年度に発表した。平成29年度は保存配列のnon-cording RNAに着目した解析を進める。本研究計画においては、③ 保存形態の喪失メカニズムの解明のために、葛西臨海水族園からペンギン受精卵の提供を受けているが、鳥インフルエンザ流行の影響により飼育環境が変化したことなどからペンギン受精卵の準備状況の予測が難しくなっており、得られた受精卵を効率的に使用するためにより綿密に計画を立てて行う必要がある。対策のひとつとして、遺伝子発現解析に関しては、in situ hybridization法のみで行うのではなく、少ない試料からより多くの情報量が得られるRNAseqによる解析も行いたいと考えている。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Developmental Biology
巻: 407 ページ: 75-89
10.1016/j.ydbio.2015.08.006