研究課題
未受精卵は動物-植物極を結ぶ軸(動植軸)を持っている。この軸に沿って三胚葉が配置され原腸陥入へと進行していく。動物-植物極は全ての動物卵に存在しており、その決定機構を理解することは大きなインパクトを持つ。本研究では、マボヤとオタマボヤを材料として、それぞれの特長を活かしながら、動植軸決定機構を時系列に沿って包括的にかつ実験的に解析することを目的とした。今年度は、マボヤ未受精卵の動植物軸を決定する要因として、卵母細胞中で予定動物極側に片寄って存在する卵核胞(Germinal Vesicle, GV)に注目した。まず遠心操作によってGVを予定植物極に移動させる方法を確立した。そのようなGV反転卵では極体放出の位置も反転することを確認し、動植物軸が反転することが分かった。このことから、GVの位置が卵の動植物軸を決定していることが示唆された。さらに動植物軸が反転した卵母細胞の成熟過程を追ったところ、未受精卵における減数分裂装置の位置やCortical flowの向き、それに伴って生じるミトコンドリアとpostplasmic/PEM mRNAの局在も反転することが分かった。また、受精後の発生においても分裂パターンや割球の発生運命が反転することが示された。よって、GVの位置を反転させると、動植物軸に関わる調べた限りの全ての現象が反転することが分かった。以上の結果から、マボヤ卵母細胞においてGVの位置の片寄りが動物極を決定し、GVの位置は卵成熟過程から胚割球の発生運命決定過程にまで影響を及ぼすことが分かった。これによりマボヤの動植物軸形成機構について卵形成から卵成熟、さらには胚発生を通した一連の理解が可能となった。
1: 当初の計画以上に進展している
動物-植物極を結ぶ軸が、卵母細胞の卵核胞(Germinal Vesicle, GV)の偏りによって決定されることを明らかにすることができた。卵母細胞内のGVの偏りを反転させることにより、動物-植物極を結ぶ軸が反転し、その後の胚発生において三胚葉の形成がこの軸に沿って反転するという報告は全ての動物を含め初めての発見であり、学術的インパクトは大きいと考える。
来年度は、オタマボヤを用いた研究をいっそう進める。特に以下の二つの研究について、精力的に実験を進展させる予定である。1.オタマボヤを用いて、母性の植物半球決定因子をRNAiスクリーニングで特定する。候補が得られれば、それについて局在解析、機能解析、エピスタシス解析、生化学的解析を行う。2.オタマボヤを用いてbeta-cateninの核移行の様子を受精から孵化までライブイメージングで可視化する。また、beta-cateninの核内濃度を定量的に解析する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 6件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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