研究課題
未受精卵は動物-植物極を結ぶ軸(動植軸)を持っている。この軸に沿って三胚葉が配置され原腸陥入へと進行していく。動物-植物極は全ての動物卵に存在しており、その決定機構を理解することは大きなインパクトを持つ。本研究では、マボヤとオタマボヤを材料として、それぞれの特長を活かしながら、動植軸決定機構を時系列に沿って包括的にかつ実験的に解析することを目的とした。生物の卵にロードされる母性因子群には、細胞の運命決定や軸決定など初期発生に必須なものが多くある。これらの中には未知の重要な因子も含まれていると期待できる一方、卵形成過程で発現する母性因子を網羅的かつ体系的に阻害するための実験系はごく限られていた。そこで本年の研究では、単純な脊索動物ワカレオタマボヤ(Oikopleura dioica)を用いて、母性因子の大規模な機能的スクリーニングの手法を確立することを試みた。以前の我々の研究からオタマボヤ独自の遺伝子抑制手法として、「DNAi」現象を発見していた。DNAiは遺伝子のPCR断片を注入するだけでターゲット遺伝子の発現を抑制できるというもので、簡便かつ安価なため大規模なスクリーニングに向いている。さらにオタマボヤでは未成熟な卵巣にPCR断片を顕微注入することで母性因子の発現に干渉することも可能である。そこで実際に卵巣で特異的に発現している遺伝子の2000個以上(全体の約56%)をスクリーニングした結果、初期発生に関わる遺伝子を8つ見出した。これらの多くは細胞接着や紡錘体形成などに関わるものであり、植物半球決定因子の候補や動植軸に影響が見られるものは見つからなかった。しかし、この実験系が母性因子の大規模な機能的スクリーニングに有用であることは示すことができた。
2: おおむね順調に進展している
DNAiを使ったスクリーニング法が母性因子の大規模な機能的スクリーニングに有用であることを示すことができた。その結果、初期発生に関わる遺伝子を8つ見出した。これらの多くは細胞接着や紡錘体形成などに関わるものであり、植物半球決定因子の候補や動植軸に影響が見られるものは見つからなかった。動植軸の確立に役割を果たす母性因子を見つけるためには、良質のサブトラクテッドライブラリーの構築、より効率よくDNAiを働かせる工夫、もっと多くの遺伝子のスクリーニングを検討する必要があることがわかった。
来年度は、オタマボヤとマボヤを用いた研究をいっそう進める。特に以下の二つの研究について、精力的に実験を進展させる予定である。1.オタマボヤを用いて、母性の植物半球決定因子をさらなるDNAiスクリーニングで特定する。候補が得られれば、それについて局在解析、機能解析、エピスタシス解析、生化学的解析を行う。2.マボヤの動物半球では、転写因子であるGATAが動物半球特異的遺伝子の発現に重要である。GATAタンパク質は、GATA塩基配列に結合して動物半球特異的遺伝子の発現を促進する。ただし、GATAタンパク質は卵全体に存在している。ここで疑問となるのは、卵全体に存在する転写因子GATAが、なぜ動物半球のみで働き、植物半球では機能しないのかということである。そこで、この問題を解決するために変異型β-catenin「DisArmed」を胚全体で発現させ、その効果を検証する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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