研究実績の概要 |
平成28年度までに、胞胚腔蓋の細胞外基質に含まれ、実際にLEM細胞集団を誘因すると予想されるSDF-1のmRNAをあらかじめツメガエル胚に顕微注入し、同タンパク質を高発現するアニマルキャップ(予定外胚葉組織)を移動する方向に置くことで一定方向へ細胞集団を誘導することを試み成功した。平成29年度は、細胞移動、力場測定など細胞運動の物理量の定量化のため、マイクロ流路を作製し、精製した市販品SDF-1を用いて既知濃度溶液をリザーバーから拡散させ厳密な濃度勾配を形成させ、それにより細胞集団を移動させる実験系の確立を目指した。蛍光色素による確認では、定量的解析を可能にする理想的な濃度勾配が形成されたため、その後精製SDF-1を用いて実験系の最適化を進めた。その結果、細胞数が50程度の集団については移動を確認することができたが、マイクロ流路のサイズをより大きくして、100-200細胞にまでスケールアップを試みている。他方、蛍光カルシウムプローブGCaMP6を用いて移動中の細胞集団のカルシウム動態を観察するなど、細胞移動を支えるシグナルについての研究も進み、LEM細胞集団の先導端で一過的な細胞内カルシウムの上昇が観察され、阻害剤などを用いた実験から細胞内カルシウムの上昇は細胞移動を促し、カルシウムの枯渇は移動を阻害することを明らかにした。さらに、カルシウムは低分子量Gタンパク質Rac1の活性化によって細胞突起(ラメリポディア)の形成を促進することを示した。(Hayashi et al. Sci. Rep., 2019)。
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