研究課題/領域番号 |
15H04384
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
久堀 徹 東京工業大学, 資源化学研究所, 教授 (40181094)
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研究分担者 |
原 怜 東京工業大学, 生命理工学研究科, 助教 (70624815)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | レドックス可視化 / チオレドキシン / 酸素 / 活性酸素 |
研究実績の概要 |
光合成の制御に特に重要な要素である「還元力の分配機構」を理解するためには、生体内酸素濃度の動態、光合成系に関わる酵素のレドックス動態、非光合成条件下で酸化に関わる因子の動態、さらに、レドックス調節の主役であるチオレドキシンの動態など電子の流れの情報が必須である。そこで、以下の5項目について、研究を実施した。①光合成生物のレドックス応答タンパク質の動態のリアルタイム解析については、レドックス応答蛋白質の例としてシアノバクテリアの炭酸同化系の酵素であるホスホグリセレートキナーゼ分子のグルタチオン化されるシステインの同定、および、その生理的な意義を調べた。②光合成生物の細胞内のレドックス動態のリアルタイム解析については、緑藻クラミドモナスのべん毛に酸化還元応答蛍光蛋白質Oba-Qを導入し、細胞内の酸化還元状態を外因的に変えたときの鞭毛内の酸化還元変化をリアルタイムに解析した。③光合成生物細胞内のレドックス関連小分子の動態の解析では、NADPHやグルタチオンなどの細胞内小分子の動態解析を試みている。④レドックス制御に中心的な役割を果たすTrxの細胞内動態のリアルタイム解析では、ヒメツリガネゴケ原葉体をアンピシリン添加培地で培養することで細胞内に巨大葉緑体を形成した試料を用いた。ヒメツリガネゴケにチオレドキシン-GFP融合蛋白質遺伝子を導入し、葉緑体内で発現させ、チオレドキシンの酸化還元による葉緑体内での動態変化の可視化を試みた。⑤植物細胞内あるいはオルガネラ内の酸素濃度の測定系の開発では、酸素応答性の蛋白質と蛍光蛋白質の融合蛋白質を作成し、酸素濃度に応じた蛍光変化を引き起こす蛋白質の分子設計を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①光合成生物のレドックス応答タンパク質の動態のリアルタイム解析については、当初網羅的な解析を目指したが、レドックス応答蛋白質の持つシステインが複数であり、網羅的な追跡を行うための情報収集に手間取ることから、まずはすでに組み換え体蛋白質および抗体を用意している蛋白質試料による動態解析に切り替えた。②光合成生物の細胞内のレドックス動態のリアルタイム解析については、実際に酸化還元変化によるべん毛内の特異な応答を観察することに成功した。③光合成生物細胞内のレドックス関連小分子の動態の解析については、まだ具体的な成果があがっていない。④レドックス制御に中心的な役割を果たすTrxの細胞内動態のリアルタイム解析では、ヒメツリガネゴケ原葉体の形質転換、および、過剰発現したGFPの蛍光顕微鏡観察を行うことには成功した。今後、導入した蛋白質のレドックス応答を生化学的、および形態学的に追跡する必要がある。⑤植物細胞内あるいはオルガネラ内の酸素濃度の測定系の開発では、酸素応答性の蛋白質と蛍光蛋白質の融合蛋白質を作成し、実際に酸素の付加によって蛍光変化を示す蛋白質を得ることに成功した。現在、ダイナミックレンジを大きくするための試行を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
①光合成生物のレドックス応答タンパク質の動態のリアルタイム解析については、光合成生物のレドックス応答蛋白質のチオール基をビオチンスイッチ法で修飾し、明所で特異的に標識される蛋白質の捕捉を行う。②光合成生物の細胞内のレドックス動態のリアルタイム解析については、緑藻クラミドモナスのべん毛にすでに導入した酸化還元応答蛍光蛋白質Oba-Q(還元によって蛍光を発する)のほか、新規に開発した参加によって蛍光を発するRe-Qを導入、さらに、様々な中間酸化還元電位を有するこれらの変異蛋白質を導入することで、細胞内の酸化還元電位をリアルタイム測定する。③光合成生物細胞内のレドックス関連小分子の動態の解析では、Glo assayにより細胞内NADPHの定量を行い、光環境変化による酸化還元バランスの変化を明らかにする。④レドックス制御に中心的な役割を果たすTrxの細胞内動態のリアルタイム解析では、引き続きチオレドキシン-GFP融合蛋白質を発現するヒメツリガネゴケ原糸体中の葉緑体の観察を行い、酸化還元に応じた蛍光変化をとらえる。⑤植物細胞内あるいはオルガネラ内の酸素濃度の測定系の開発では、すでに得られている酸素応答性の蛋白質と蛍光蛋白質の融合蛋白質について、ランダム変異法によってよりダイナミックレンジの大きな蛋白質の選抜を行う。
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