研究課題
シアノバクテリアLeptolyngbya boryanaは、嫌気環境で窒素枯渇に応答して窒素固定を行う。その際、光合成活性も維持されることから、窒素固定が光合成と両立している。作物への窒素固定能移入の基盤確立を目指し、1)初年度単離したCN1株の解析、2)CN1株への新たな遺伝子導入、3)CN株を窒素固定条件での育種、4)新たな遺伝子探索のためのトランスポゾンタギングによる変異株スクリーニングを行った。1)CN1株のニトロゲナーゼのサブユニットタンパク質の含量とニトロゲナーゼ活性について、元株L. boryanaとの比較を行ったところ、タンパク質含量で約10%、活性で約0.4%であった。このことから、CN1株では合成されたサブユニットタンパク質のうち約4%しか活性型ニトロゲナーゼにとして機能していないことが分かった。2)活性酸素によるニトロゲナーゼ金属中心の破壊を緩和するため、スーパーオキシドジスムターゼ(SodA)とカタラーゼ(KatG)による活性酸素除去系の導入およびシアノバクテリアの有する酸素除去系であるフラボ2鉄タンパク質(flavodiiron protein; Flv)遺伝子(flv1/2-flv3/4)の導入を試みた。CN1にSODとKatGを導入したCN1ks株とflv1/2-flv3/4を導入したCN1f株を単離した。3)CN株を、窒素枯渇条件で長期間培養したところ生じてきた緑色のコロニーを単離し、窒素枯渇条件での育種を継続している。4)接合法によりトランスポゾンプラスミドを導入し、ストレプトマイシン耐性株を単離し、窒素固定条件下での生育不良を指標にスクリーニングを行った。現在2000株をスクリーニングしたところ、窒素固定条件で生育不良を示す変異株を2株単離した。ゲノムリシーケンスによりこれらの変異株のトランスポゾン導入部位の特定を進めている。
2: おおむね順調に進展している
CN1株においてニトロゲナーゼ活性が低い理由を、活性とタンパク質含量から推察することができ、酸素や活性酸素除去系の強化が重要であることを示唆する結果が得られた。加えて、育種による有望株の単離、新たな遺伝子同定のための系を確立することができたことから、全体としておおむね順調に進展していると評価する。
CN1株への酸素や活性酸素除去系の付与に加え、新たに同定した、光合成との両立に関わる遺伝子の大量発現を試みることで、ニトロゲナーゼ活性を強化し、非窒素固定性シアノバクテリアへの窒素固定能の付与を目指す。並行して、ヒメツリガネゴケ葉緑体にcnfRとnifBプロモーターに連結したレポーター系を導入して、葉緑体においてCnfR系による転写活性化が可能かどうかを検討する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件)
Modern Topics in the Phototrophic Prokaryotes-Metabolism, Bioenergetics, and Omics, Hallenbeck, P. ed.
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