研究課題
ジベレリン(GA)は植物の成長に顕著な促進作用を示す植物ホルモンである。GA受容体GID1がGAと結合すると、GA信号伝達の抑制因子DELLAタンパク質とE3の結合が促進され、DELLAがユビキチン-26Sプロテアソーム系により分解される。その結果、DELLAにより抑制されていた転写因子PIFが転写を促進し、GA信号が伝達されると考えられている。しかし、上記モデルでは説明できない現象も知られている。例えば生理学的な実験によりGA依存的に細胞内カルシウムイオン濃度が上昇することが明らかにされているが、GA信号伝達のスイッチとされるDELLAの分解との関連は不明である。本研究ではカルシウムイオン依存的なGA信号伝達系を解析し、既知のGA信号伝達経路との統合的理解を目的とした。カルシウムセンサータンパク質を発現する形質転換シロイヌナズナを用いて細胞内カルシウムイオン濃度を測定した。活性型GA投与後数分でカルシウムイオン濃度の上昇が観察されたが、不活性型のGA9-meの投与ではカルシウムイオン濃度の上昇は認められなかった。したがってカルシウムイオン濃度の一過的な上昇は活性型GAに特異的な現象である。GA信号伝達のスイッチとされるDELLAの分解はGA投与約30分後なので、GAによるカルシウムイオン濃度の上昇にはDELLAの分解は関与していないと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
カルシウム依存性タンパク質リン酸化酵素NtCDPK1は分子内にカルシウム結合部位をもつセンサー型キナーゼであるので、GAによるカルシウムイオン濃度上昇により直接活性化される。すなわちNtCDPK1の活性化はカルシウムを介する細胞内情報伝達の初発反応である。カルシウムイオン濃度が上昇するとNtCDPK1は自己リン酸化される。キナーゼの活性化では触媒領域内アクティベーションループの自己リン酸化が引き金となることが多い。ところがCDPKのアクティベーションループ内の該当アミノ酸は進化の過程でGluまたはAspに置換されていることからCDPKのアクティベーションループは既に活性化状態にあり、NtCDPK1の自己リン酸化は別の機能を果たしていると考えられた。そこで前年度に明らかにしたNtCDPK1の自己リン酸化部位にアミノ酸置換を導入した変異型NtCDPK1を作製して解析を行った。自己リン酸化によるカルシウム非依存的なキナーゼ活性の獲得、14-3-3との結合促進、基質との親和性への影響などについて検討した。その結果、NtCDPK1の自己リン酸化は基質認識に影響を与えることが明らかになった。興味深い知見が得られているので、全体としての達成度はほぼ順調と考えられる。
カルシウムセンサータンパク質を発現させた形質転換植物を用いた解析によりGAはDELLAの分解を介さずカルシウムイオン濃度の上昇を引き起こすと考えられた。細胞内信号伝達は最終的には遺伝子発現の変化に帰着する。シロイヌナズナのDELLAをコードする遺伝子は5つ存在する。もしDELLA非依存的なGA信号伝達経路が存在するなら、della五重変異体においてもGAは遺伝子発現に影響を与える可能性がある。そこで次年度はdella五重変異体にGAを投与した時、発現が変動する遺伝子を、次世代シーケンサーを用いて探索する。NtCDPK1の自己リン酸化が基質との親和性に影響を与えることが示されたので、次年度はNtCDPK1の自己リン酸化が分子内リン酸化反応なのか、分子間リン酸化反応なのかを調べる。NtCDPK1の219番目のAspはキナーゼ活性に必須なアミノ酸である。これをAsnに置換するとNtCDPK1は自己リン酸化活性を失う。キナーゼ活性を消失させた変異型NtCDPK1(D219N)を作製してNtCDPK1の自己リン酸化が分子間で起こるのか、分子内で起こるのかを調べる。
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Plant Physiol.
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