研究課題
本申請課題を達成するためには、クレブソルミディウムの細胞外の脂質を細胞内の脂質と明確に分離し解析を行う必要があった。そこでシリカゲルプレートを用いて、微細藻類においても表層脂質のみを精度よく効率的に採取する実験手法の確立に成功した。本手法は従来の短時間の有機溶媒処理による細胞外脂質の抽出法より、より表層の細胞外脂質のみを抽出できる手法である。よって従来法による結果と合わせて、クレブソルミディウムの細胞外脂質の階層構造を推定する事も可能となった。さらにクレブソルミディウムのATR FT-IRによる細胞表層の解析の結果も含め、クレブソルミディウムの細胞壁は、マトリックス多糖の他、緑藻に類似した糖タンパク質も主成分とする細胞外皮を保持している事、気相条件において、その糖タンパク質の骨格の中に多くの脂肪酸を結合させており、TAGを主成分とするフレキシブルな液状ワックスを展開している可能性が示唆された。このことは、本研究課題で提案する「植物が陸上に進出する過程で液状のフレキシブルなワックスバリアを獲得して初期陸上環境に適応し、その液性ワックスが結晶性のワックスに置き換わることで表面を固く保護し、さらに3次元的な個体の維持と伸長に貢献した。」という新たな仮説を強く支持するものである。また表層構造のSEMによる観察から固体培地での気相条件においてフィルム上の構造体を形成する事を明らかにし、さらに乾燥条件や培養時の水相、気相条件のRNA-seq 解析により、水相、気相環境に対応して転写産物を制御し適応していることも明らかにした。以上の結果から水相、気相環境の双方にさらされる環境に生息するクレブソルミディウムが、環境に応じて増減させやすい液性のワックスを持ち、環境条件に応じて制御している事が予期された。
2: おおむね順調に進展している
上記の通り、特にクレブソルミディウムの表層構造について得られた知見は、植物の陸上進出の過程においてワックスバリアを変化させることにより初期陸上環境に適応していったという、本研究課題で提案する新たな仮説を強く支持するものであり、大きな進展となった。またRNA-seqによる転写産物情報も増えつつあり、クレブソルミディウムのワックス合成や制御に関与する遺伝子を同定するための基礎情報も揃いつつある。クレブソルミディウムの遺伝子操作系の構築は進行中であるが、全体として計画通りに順調に進行している。
計画通り現在までに得られた知見を基に、その環境変化による応答や、ワックス成分の変動の解析を進める。またワックス成分の変動解析と転写産物情報の解析を統合し、クレブソルミディウムのワックス合成や制御に関与する遺伝子の同定を試みる。さらにクレブソルミディウム遺伝子操作系の確立や、シロイヌナズナのワックス変異体の機能相補を活用した解析を進め、同定した遺伝子の実証や機能解析を目指す。
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Biochim. Biophys. Acta, Molecular and Cell Biology of Lipids
巻: in press ページ: in press
10.1016/j.bbalip.2016.04.015
日本植物学会 BSJ-Review vol. 7B 55-65
巻: 7B ページ: 55-65
Genome Biology and Evolution
巻: 8 ページ: 1-16
10.1093/gbe/evv233