研究課題/領域番号 |
15H04393
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
太田 啓之 東京工業大学, 生命理工学院, 教授 (20233140)
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研究分担者 |
佐々木 結子 (関本結子) 東京工業大学, 生命理工学院, 研究員 (60422557)
堀 孝一 東京工業大学, 生命理工学院, 助教 (70453967)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 細胞外皮 / 細胞壁 / ワックス / 植物陸上進出 / 車軸藻植物門 / クレブソルミディウム |
研究実績の概要 |
前年度までに明らかにした「液状のフレキシブルなワックスバリア」の主成分と考えられたトリアシルグリセロール(TAG)の合成経路を解明するために、各種生育条件におけるRNA-seq データとTAG蓄積量の解析を行った。TAG合成の最終反応はPDAT, DGAT1, DGAT2による3つの経路が知られている。クレブソルミディウムにおいてPDATおよび DGAT1は1コピーである一方、DGAT2は6コピーとDGAT2の遺伝的多様性が高く、陸上植物よりも藻類と類似していることが示された。これらの遺伝子の環境応答を解析した結果、乾燥や長期の気相培養など、それぞれ異なった環境に応答するDGAT2が存在する事が明らかとなった。クレブソルミディウムは気相条件で長期に培養すると細胞内のTAG含量が大幅に増加したことから、DGAT2転写産物の増加はTAG蓄積量に影響すると考えられる。したがって乾燥ストレスによって誘導されるDGAT2が細胞外のワックスバリアの形成に関与する事が期待された。また乾燥ストレス下ではオイルボディに局在すると考えられるカレオシンやステロレオシンなどの転写産物の蓄積量が増加し、これらの遺伝子がワックスバリアの形成に関与する可能性も期待された。さらに乾燥ストレス下のクレブソルミディウムではRD20、PP2Cなどのシロイヌナズナにおいてアブシジン酸に応答する事が知られている遺伝子の転写産物が増加した。乾燥ストレス下では陸上植物と同様にクレブソルミディウムにおいてもアブシジン酸蓄積量が増加する。そこで、アブシジン酸がこれらの遺伝子を誘導している事を期待し、アブシジン酸処理を行ったがRD20、PP2Cの蓄積量に大きな変化は見られなかった。したがってクレブソルミディウムにおけるアブシジン酸応答の有無やバリア形成との関連は、さらに多くのデータを取得し解析する必要がある。 昨年度までの成果を取りまとめFrontier in Plant Scienceに投稿し、無事出版された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クレブソルミディウムの「液状のフレキシブルなワックスバリア」の形成に関わる可能性のある遺伝子を解析した結果、DGAT2やカレオシン・ステロレオシンなどのオイルボディ表在タンパク質がバリア形成に関与する可能性を示唆する事が出来た。DGAT2は藻類において貯蔵脂質を合成する主要な遺伝子である。クレブソルミディウムがDGAT2をワックスバリア形成に用いているとすれば、藻類の貯蔵脂質蓄積機構がクレブソルミディウムの祖先のワックスバリア形成の起源となり、陸上環境により近い所に進出した生物がさらに陸上環境に適応した固形の強固なワックスバリアを獲得するきっかけとなった事が期待される。このように本研究課題の目標とする、植物の陸上環境への適応機構がどのように獲得され、進化してきたかを解明するうえで重要な知見を得ることができた。クレブソルミディウムの遺伝子操作系の構築は進行中であるが、昨年度までの成果はすでに論文として本年度中に出版されている。またオーストリアのウイーンで行われた国際学会に招待され、成果の一端を発表するなど、国内外で発表を多数行った。以上の通り、全体として計画通りに順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
計画通り引き続き、ワックスバリア形成に関わることが期待される遺伝子を同定し、機能の解析を進めるとともに、環境応答やアブシジン酸応答とバリア形成の関連を解析する。さらにクレブソルミディウム遺伝子操作系の確立を目指すと共に、ゼニゴケなどゲノム解析や遺伝子操作系が確立した生物種を用いた遺伝子機能解析も視野に入れ、クレブソルミディウムのワックスバリア合成関連遺伝子の同定と機能解析を行う。
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