研究課題
先年度までに明らかにしたクレブソルミディウムのワックスバリア形成に関して、その制御因子を探索するために、気相-液相培養間での転写産物の比較解析を進めた。その結果、13ファミリー、29遺伝子の転写因子のmRNA蓄積量が気相-液相間で変動することを明らかにした。その中でも3遺伝子のHD-ZIP転写因子は液相培養から気相培養に移した際、顕著に抑制された。HD-ZIPはクレブソルミディウムの祖先が分岐する直前に多様化した転写因子であり、したがってHD-ZIPは気相-液相環境での環境変動に適応するために発達した重要な調節因子である可能性が示唆された。これらの事から、HD-ZIPはワックスバリア形成の制御にも関与する事が期待される。また本年度は進化の時間軸を広げて解析を行うために、基部陸上植物の一つであるゼニゴケにも展開を拡げて解析をおこなった。その結果、ゼニゴケの表層脂質を抽出した画分から多くのトリアシルグリセロール(TAG)が検出され、クレブソルミディウムと同様にTAGをフレキシブルなワックスバリアとして用いている可能性が考えられた。またクレブソルミディウムのワックスエステルはフィチルエステルであったが、表層脂質合成遺伝子の比較解析などから、ゼニゴケは種子植物に見られる脂肪酸を主成分としたワックスエステルを合成していることが期待された。本研究課題の進展により、藻類が進化の初期に原始的な表層脂質としてTAGによるソフトな撥水性バリアを形成し陸上環境に適応したという当初の仮説をさらに発展させ、陸上植物が発達していく過程においてもTAGは液状のフレキシブルなワックスバリアとして用いられると共に、ワックスエステルなどクチクラ構成要素が段階的に発達し、最終的に種子植物で見られる固いバリアで覆う現在のクチクラワックス構造に進化していったという新たな仮説を提唱することができた。
29年度が最終年度であるため、記入しない。
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Nature plants
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