研究課題/領域番号 |
15H04396
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
井口 泰泉 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科(八景キャンパス), 特任教授 (90128588)
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研究分担者 |
荻野 由紀子 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (00404343)
宮川 信一 和歌山県立医科大学, 先端医学研究所, 講師 (30404354)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 性決定 / 爬虫類 / ミジンコ / 環境 |
研究実績の概要 |
幼若ホルモン処理によってミジンコ類の雄産生が誘導されることから、自然環境下では成長や生殖に不向きな環境情報を感受した個体内では幼若ホルモン経路が活性化し、雄産生が引き起こされていると考えられる。我々はDaphnia pulexのWTN6系統を用いて日長時間に応じて仔虫の性比をコントロールできる実験系を確立している。性決定の臨界期における幼若ホルモン経路関連因子の探索を目的にトランスクリプトーム解析を実施し、オス産生に関与する幼若ホルモン経路の上流制御因子としてイオンチャネル型グルタミン酸受容体、さらに、下流応答因子の候補としてセリン/スレオニンキナーゼの一種であるPKCを選抜した。PKCと幼若ホルモンの制御関係を明らかにするため、薬剤曝露試験を実施した。その結果、BIM投与(PKC阻害剤)によって短日(雄誘導)条件の母親ミジンコの雄誘導率が著しく低下することが分かった。一方で、長日(雌誘導)条件下ではBIM投与によって雄産生の誘導は見られなかった。これらの結果は、PKCがミジンコの雄誘導機構に関与していることを強く示唆した。 ワニの温度依存型性決定に関して、アメリカの共同研究者が急逝したため、本年度は新たなサンプルを手に入れることができない状況となった(当初の卵を使った研究計画は、予算の繰り越し申請が認められたため、翌年度に行うこととなった)。本年度は既にランを終えているRNA-seq解析の詳細なデータ解析を行なった。既に注目していたエピゲノム関連遺伝子や、代謝に関わる遺伝子が雄産生温度由来の生殖腺で高発現していることが新たに見出され、性決定と細胞代謝との関連性を強く示唆する結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ミジンコの研究は概ね順調に研究が進んでいるが、アメリカの共同研究者が急逝したため、本年度は新たなサンプルを手に入れることができない状況となったため、卵を使った実験は翌年度に行うことになったため。
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今後の研究の推進方策 |
ミジンコについては、プロテインキナーゼとPKCと幼若ホルモンの制御関係をより詳細に解析するために、他のPKC阻害剤やPKC活性化剤、さらには他のプロテインキナーゼ(PKAなど)に関わる投薬試験を通して、雄性決定機構を明らかにしていく。さらに、幼若ホルモンの生合成制御機構を含めた性決定・分化遺伝子カスケードの包括的な理解を目的に、性決定期以前の卵母細胞から性分化進行中の後胚発生期に及ぶ複数タイムポイントのサンプルを用いた時系列トランスクリプトーム解析を行う。 ワニの温度依存型性決定に関して、我々は電気生理学実験から温度センサーであるTRPV4が雄産生温度域(高温度域)で活性化され、さらに卵への薬剤塗布実験からこのタンパク精巣分化に強く関連することを明らかにしている。一方低温度域で活性化されるTRPについては、温度感受域の測定や、薬剤による性決定への寄与に関する知見はない。そこで、他動物種のTRPの温度感受域の情報を元に、低温感受性TRPのワニ温度依存型性決定への関連性を調べる。また、トランスクリプトーム解析の結果から明らかとなった、エピゲノム修飾が性決定に及ぼす影響を解析する。エピゲノム修飾とヒストン修飾酵素の性決定における重要性はJumonjiファミリーのひとつであるJmjd1aノックアウトマウスでも報告されている。このような観点から、我々はJumonjiファミリーであり、ヒストン修飾酵素/ポリコーム複合体の構成因子の一つであるJARID2が、雌産生温度特異的に発現が低下することを見出している。そこで本研究では、ヒストン修飾が環境温度によってどのように変化するか解析する。
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