研究課題/領域番号 |
15H04401
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
黒岩 麻里 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (20372261)
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研究分担者 |
河野 友宏 東京農業大学, 応用生物科学部, 教授 (80153485)
松田 洋一 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (70165835)
西田 千鶴子 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 助手 (50106580)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | W染色体 / 性決定機構 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、未だ明らかとなっていない鳥類の性決定遺伝子を同定することである。鳥類のW染色体上には、卵巣決定遺伝子が存在することを想定し、Z染色体とW染色体の差が小さいエミューを用いて、両染色体のゲノム配列を比較することにより、W染色体特異的なゲノム配列を得ることを試みた。エミューの繊維芽細胞を培養し、染色体標本を作製した。この標本を用いて、マイクロダイセクションによりW染色体のみを収集することを試みたが、形態が類似しているZ染色体および4番染色体との区別かつかず、4本(Z、W、4番一対)の染色体を収集した。各染色体からDNA増幅を行い、すでに報告されているW特異的配列のPCR増幅によるW染色体の同定、またZ染色体のみに存在するDMRT1遺伝子のクローニングに成功したため、本遺伝子配列のPCR増幅によるZ染色体の同定を試みた。しかし、PCR増幅からは、明確な区別が困難であった。よって、4本の染色体がプールされた増幅DNAを用いて、次世代シーケンサーによる配列の決定を行った。その結果をすでに報告されているニワトリのゲノム配列と比較すると、ZおよびW染色体上の一部の配列が一致した。また、解読された配列には偏りがあったことから、DNA増幅に偏りが生じていることが示唆された。さらに、エミューの性決定時期を推測するために、ニワトリで報告されている性分化関連遺伝子のエミューホモログの単離と発現様式を決定した。また、平成27年度は、DMRT1、AMH、CYP19A1、FOXL2の部分配列を決定し、RT-PCRにより発現時期を特定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マイクロダイセクションを行う際に、染色体の形態からZ、W、4番染色体が区別できないことは、当初から予想されていた。よって、PCR増幅によるZおよびW染色体の同定を試みた。W染色体を区別するためのW特異的配列はすでに報告されており、さらに予備実験により間違いなくW配列を増幅することを確認していた。また、Z染色体を区別するためのDMRT1遺伝子配列も本研究計画においてクローニングに成功し、Z染色体を区別できることを確認していた。よって、各染色体を区別するためのマーカー配列の準備は万全であった。しかし、染色体から増幅されたDNAを鋳型に用いると、PCR増幅が安定せず同定が困難であった。理由として、染色体からDNAを増幅する際にDNAが断片化されるため、PCR増幅がかかりにくくなったことが考えられた。よって、染色体からDNAを増幅する実験条件を何度も検討した。さらに、PCRによる増幅産物のサイズが可能な限り小さくなるように、何度もプライマー配列を設計した。しかし、同定は困難であった。この実験条件の検討のために研究計画以上の時間を有したことが、進捗状況がやや遅れていることの大きな理由である。さらに、染色体から増幅されたDNAは大変微量であるため、そこからライブラリーを作製する条件を検討するのに時間を有した。しかし、結果として一部の配列が決定できたため、今後解析数を増やすことにより当初の目的を達成できる見込みとなった。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、エミュー生殖腺に発現している転写産物について、RNAseq解析を行う。平成27年度にDMRT1、AMH、CYP19A1、FOXL2の部分配列を決定し、RT-PCRによる発現時期を特定した結果から、エミューの性決定時期を推測することができた。よって、平成28年1月から3月にかけて、性決定時期と推測される発生ステージの生殖腺のサンプリングを行った。また、生殖腺を得た個体の性判別も同時に行っている。今後はこれら生殖腺からRNAを抽出し、RNAseq 解析を雌雄別に行う。得られたデーターを雌雄間で比較し、メス (ZW)の生殖腺に特異的に発現している転写産物を特定する。また、これら転写産物がW染色体上に存在するかを確認するために、先に行ったマイクロダイセクションにより単離された染色体から得られたゲノム配列に、特定された転写産物の配列が含まれるかを調べる。さらに、ノーザンブロット解析、PCR、FISHマッピングなどを行い、染色体上の位置を同定する。また、先に単離した性分化関連遺伝子の全長配列を決定し、各遺伝子のエミューホモログの特徴を決定するとともに、さらに詳細な発現解析を行う。加えて平成28年度は、鳥類の性分化に重要な働きをもつことが報告されているAd4BP/SF1、Hemogen遺伝子のクローニングと発現解析を行う。また、エミューは季節繁殖性であるため、日本では冬期(12~3月)にしか産卵しない。よって、平成28年度も冬期において、エミューのサンプリングを行い、性決定時期およびその前後の発生ステージの胚を得る。
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