鳥類のW染色体には古くから卵巣決定遺伝子が存在することが予想されているが、未だ同定に至っていない。本研究の目的は、未だ明らかとなっていない鳥類の性決定(卵巣決定)遺伝子を、Z染色体とW染色体の差が小さいエミューを用いて同定することである。そのために、以下の3つの研究計画を実施した。 1. 性分化関連遺伝子の発現様式の決定:ニワトリにおいて精巣分化および卵巣分化に働くことが知られている性分化関連遺伝子も発現定量を行った。対象とした遺伝子は、DMRT1、AMH、CYP19A1 (aromatase)、FOXL2である。発生ステージが進むにつれ、各遺伝子の発現量は増加し、ニワトリで報告されている発現様式と類似していたことから、これら遺伝子はエミューにおいても同様の働きを担っていることが示唆された。 2. 精巣決定遺伝子DMRT1の解析:DMRT1はZ染色体上に存在し、鳥類の精巣決定遺伝子と考えられている。昨年度の研究において、エミューのDMRT1には複数のバリアントが存在することが示唆された。本年度は、各バリアントの解析を進めた結果、エミューでは選択的ポリアデニル化によりバリアントが生じていることが確認できた。本遺伝子における選択的ポリアデニル化は報告がないため、この成果は鳥類の性決定メカニズムを研究する上で重要な知見となる。 3. RNA-seqおよびsm RNA-seq解析:性決定前、性決定時期、性決定後の3ステージに分けてサンプリングした雌雄の生殖腺において解析を行い、質、量ともに十分なリードを得ることができた、得られたリードは、報告されているニワトリのZ染色体ゲノム相列を参考に、性染色体上のものを選別し、さらに雌雄間で比較することにより、ZあるいはW染色体上の配列を選定した。
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