研究課題/領域番号 |
15H04404
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
久原 篤 甲南大学, 理工学部, 准教授 (00402412)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 温度応答 / 組織ネットワーク / C. elegans / 精子 / フィードバック制御 / 温度受容ニューロン |
研究実績の概要 |
動物は常に変化する環境に適切に適応することで、生存や繁栄をおこなうことができる。本研究では、動物の温度環境への適応を、これまでに明らかにした神経などの組織だけでなく、これまでに焦点を当ててこなかった組織に着目して解析をおこなう。それらの複数の臓器間のネットワークによる時空間制御の観点から動物の温度適応の分子生理機構の解明をめざす。本研究では、シンプルなモデル動物である線虫C. elegansのオリジナルの温度適応の現象をもちいる。温度適応に関わるさらなる遺伝子を同定したところ、これまでに同定した神経系と腸以外にも、新たに温度適応に関与する組織として精子がみつかった。そのため、温度適応に関わる組織として、神経系と、腸と、精子の組織間ネットワークの優位関係を各組織の変異体をもちいて遺伝学的優位解析をおこなった。具体的には、精子特異的プロテインフォスファターゼと、腸のインスリン経路と、温度受容ニューロンのcGMP経路のそれぞれが、物理的に離れた組織であるが、相互作用し合っている結果が、分子遺伝学と生理学的解析などから明らかになった。特に、精子から頭部の温度受容ニューロンに、情報のフィードバックがおきていることが示唆された。さらに、ステロイドホルモンなどの分泌性シグナリングが、それらの組織間の情報伝達を担っていることが遺伝学的に示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した実施計画をおおかた進められたと考えられる。温度適応に関わるさらなる遺伝子を同定したところ、これまでに同定した神経系と腸以外に、新たに温度適応に関与する組織として精子がみつかり、精子から頭部温度受容ニューンへのフィードバック制御がみつかり、新たな視点から温度適応に関わる組織ネットワークの解析を進めることができた。さらに、ステロイドホルモンなどの分泌性シグナリングが、それらの組織間の情報伝達を担っていることが見つかった。DNAマイクロアレイで単離された分泌性情報伝達に関わる遺伝子のなかでも核内受容体の変異体で低温耐性異常がみつかり、組織間情報伝達の分子モデルが提唱できた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにおこなった温度の変化に応じて発現変動する遺伝子のDNAマイクロアレイ解析の結果から、分泌性の情報伝達に関与する分子が多数得られたため、それらを解析する。並行して、これまでにDNAマイクロアレイ解析から同定した低温適応時に発現変動遺伝子の変異体について、低温適応の表現型を解析する。同定した組織に応じて、既知の分子経路との接続を多重変異体をもちいた分子遺伝学と、細胞活動イメージングなどで明らかにする。複数の組織の温度変化に応じた生理的動態は、Genetically encodableなCa2+インディケーターをつかい定量化する。定量化されたテータをもとに数理的なパターンが存在するかどうかを考察する。また、DNAマイクロアレイ解析から得られた遺伝子の変異体のうち、低温耐性の異常が見られたにも関わらず、戻し交配によってその異常が消えてしまったものもあるため、それらの系統に関しては表現型を指標に原因遺伝子の同定に向けた解析を行う。
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