本研究では単純化した実験モデルを使うことにより、ウイルスなどの寄生体と宿主の共進化プロセスを理解することを目指した。本年度は昨年までに実施した継代実験で得られた宿主および寄生体RNA配列を次世代シーケンス技術を用いて大規模に解析することを目指した。これまでに行った進化系列の1つに着目し、途中の約20か所について宿主および寄生体RNAのcDNAを調製した。宿主のcDNAについては2000塩基長と長いためPacbioRSにより配列解析を行った。寄生体のcDNAについてはおそらく強い高次構造のためにPacbioRSでは配列が読めなかったため、Illuminaに変更して配列解析を行った。Pacbio RSにより得られたデータには多くの読み取りエラーが含まれたため、同じ配列について複数回の配列読み取りを行い、そのコンセンサス配列を使った。これらの方法で、全ての箇所について200リード以上の配列を獲得することに成功した。
配列解析の結果、宿主、および寄生体RNAに複数の変異が蓄積していっている様子が観察された。これは宿主、寄生体ともに進化していることを示している。さらに宿主配列の進化ではコードされている複製酵素の配列特異性を上げる変異が入っていることが示唆された。その後、寄生体側にもともと宿主が持っていた複製酵素によって認識される配列が生まれていることを見出した。これらの結果は、宿主と寄生体が軍拡競争を行ったことを示している結果である。以上の結果から、この単純化されたRNA複製システムで宿主と寄生体が進化的軍拡競争を行っていたことを示す証拠を得た。一方で、RNAの濃度ダイナミクスからは軍拡競争だけではなく、平和的共存を行っている期間も見出されている。今後、これらの期間を比較することにより、これらの進化ダイナミクスを決める条件を明らかにしていきたい。
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