申請者らおよび海外研究者の従来のミトコンドリアDNA分子系統研究により、旧大陸と新大陸を含む北半球のヒグマには、複数の遺伝的系統が局所的または広範囲に分布することが明らかにされている。本研究では、北海道のヒグマ集団とユーラシア大陸のヒグマ集団とを比較しながら古代DNA解析を含めた分子系統地理的解析を行い、北海道のヒグマ集団で見出された3つの遺伝的系統の渡来ルートと起源を解明することを目的とした。 これまでのミトコンドリアDNAのAPLP分析により、道東系列の同系列がユーラシア大陸内のコーカサス地方およびアルタイ山脈周辺に分布していること、さらに、サハリンには道央-道北系列とは異なるが近縁な系列が分布することが申請者らの分析結果から示されている。そこで、本年は特にユーラシア大陸の古代ヒグマについて道南系列の有無に着目して解析を進めたが,現在までに道南系列は見つかっていない。ユーラシア大陸北部には、東欧から西アラスカに分布する系列が古代ヒグマにおいても見出された。 一方、バルカン半島はヒグマのミトコンドリアDNAの西欧系列と東欧系列の境界線と考えられてきたが、種保全のために,東欧系列をも個体を人工的にバルカン半島南部へ移入したことが記録されている.元来の自然分布を調べるために、ブルガリアの古代ヒグマについて分析したところ、西欧系列のみが見つかった。これは、バルカン半島南部に位置するブルガリアが西欧系列の分布域であることを示すものと考えられる。
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