前年度に引き続き環境中からクロララクニオン藻に近縁な生物の探索を目的として、2017年4月に三重県志摩市及び四日市港で、6月に鳥取県泊市、11月にパラオ共和国でサンプリングを行ったところ、三重県志摩市及び四日市港のサンプルからクロララクニオン藻に近縁な培養株SRT705、SRT710及びY-YKI-01の3株の確立に成功した。18S rRNA遺伝子に基づく系統解析の結果、これら3株はMinorisa minutaと同じクレードに属するものの、それぞれ遺伝的に異なることが明らかとなった。これら3株について詳細な形態比較及び分子系統解析を行ない、Y-YKI-01株は、以前に東京湾から確立しMinorisa属の新種の可能性があるY-KSI-01株と同じであることが示された。一方SRT705株とSRT710株は細胞サイズや鞭毛長、遊泳様式が他の培養株及びM. minutaと異なり、また系統的にも明確に区別されることから、Minorisa属の新種であることが示唆された。また、これら3株及び昨年までに確立したY-KSI-01株及びSRT609株はクロララクニオン藻の多くやRhabdamoebaと同様に仮足をもつことが示された。既に微細構造観察が行われたSRT609株以外の4株について透過型電子顕微鏡観察を行った。これら4株はSRT609株と同様に核、ゴルジ体、管状クリステを有するミトコンドリアをもち、色素体やその痕跡と思われる細胞小器官は観察されなかった。さらにSRT609株を用いてMinorisa属の鞭毛装置の解明に取り組んだところ、SRT609株の鞭毛に鞭毛小毛はみられず、微小管性鞭毛根は少数の微小管から構成されており、クロララクニオン藻の鞭毛装置に近い単純な構造であることが明らかとなった。クロララクニオン藻成立に至る宿主ケルコゾアの進化に関する重要な知見を得ることができた。
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