動物の体表に見られる多彩な模様パターンは、同種識別、交配選択、擬態・隠蔽等、適応的にも大きな意義をもつと考えられる形質である。模様パターンの多様性・バリエーションには、系統的に近縁な種間でありながらまったくパターンが異なるような「近くて遠い」タイプと、その反対に、系統的にはまったく別のグループであるのにパターンが極めて似ているような「遠いけど近い」タイプが存在する。一方で我々は、そうした模様パターンの「描き方」に大きく2つの方法(「ぬり絵」型・「陣取り合戦」型)があることを示した。これら2つの機構は互いに排他的なものではなく、多くの動物種では両者をうまく組み合わせることで、複雑かつ多様な模様パターンを描いていると考えられる。本研究課題では、美しく規則的な模様パターンの多様性がどのように生じるのか、そのメカニズムと進化プロセスを明らかにすることを目的として、上述したパターンのバリエーションと「描き方」の違いに着目した比較解析によるアプローチを行った。本年度は、模様パターンの異なるトラフグ属近縁魚種間交雑系統のF2世代の作出に成功し、約800個体について体側および背側の模様パターンが識別できる大きさまで飼育した後、サンプリングを行った。独自に開発したパターン解析ソフトウェアを用いて模様パターンの定量解析を行い、F2個体の一部においてパターンの複雑度に違いが見られることを明らかにした。また、前年度より着手したサケ科およびモヨウフグ属の魚種を対象としたRNA-seq/全ゲノム解析/模様パターン解析を引き続き進め、サケ科魚類については、交雑魚を含む複数魚種の色素細胞トランスクリプトーム解析および模様パターン解析により複数のパターン形成関連候補因子の同定を行うことに成功した。モヨウフグ属についての解析からは模様パターンと系統との関連について興味深い知見が得られ、現在論文を準備中である。
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