研究課題
本研究では,フジツボ類を題材に,生物界でみられる多様な性表現の意義と維持機構について,実証研究と理論研究の両面から明らかにすることを目的としている。2017年度は,以下の研究を行った。(1)遺伝マーカーの開発をフクロムシ類2種(フジツボフクロムシ,ナガフクロムシ)について着手した。ゲノムDNAからショットガンライブラリーを作製し,次世代DNAシーケンサーを使ってシーケンスリード(塩基配列)を取得した。リードのアセンブルを行い,得られたコンティグとシングルトンからマイクロサテライト(MS)領域を探索した。リピートユニットが2から6塩基までという制約を設定したところ,多数のMS領域が検出され,うち一部についてPCRプライマーを設計した。(2)ハサミエボシについて上記と同様の手法でMSプライマーを開発し,それらを用いて約10集団について父性判定を行った。その結果,矮雄と雌雄同体が共存する集団では,矮雄の繁殖成功は雌雄同体と比べて低いとは言えないという予備的な結果が得られた。(3)ヨーロッパミョウガガイの雄と雌雄同体の交尾行動や生殖器の形態について詳細な観察を行った。また,深海性のミョウガガイ類の矮雄と大型個体(雌雄同体または雌)の形態について種間比較を行った。これらの成果を2編の論文としてまとめた。(4)フジツボ類の多様な性表現,および海産動物の性表現に関する理論的研究に関する知見を,それぞれの英文総説論文としてまとめ,それらの概要について完成させた。
2: おおむね順調に進展している
論文は順調に出版できている。また,各小課題についても,概ね順調で予定通りに進んでいる。
(1)適応度の評価:ハサミエボシについて,引き続き開発したMSマーカーを用いて,父性判定によって繁殖成功度を評価する。さらに,雄と雌雄同体という異なる性表現をとる個体間で,適応度を比較する。動物界でみられる雄と雌雄同体の共存について知見をまとめ,国際学会で発表する。(2)種間比較:引き続き,新たな標本および生活史データの入手を行う。特に,ミョウガガイ類などの深海性フジツボ類に加え,広義のフジツボ類であるフクロムシ類を含めて網羅的に情報を集める。(3)性表現の可塑性:今までの知見を整理し,総説として完成させる。(4)理論研究:理論と実証研究をつなぐために,既存の同時的雌雄同体の性配分理論を整理して,総説として完成させる。
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Zoological Journal of the Linnean Society
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10.1093/zoolinnean/zly018
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http://www.nara-wu.ac.jp/bio/pcecol/