本年度は、性選択形質である雄のオレンジスポットに含まれるβカロテンが選好性を変化させる作用に注目し、その摂取量が(1) DNAメチル化を介して雌の眼と脳にもたらすエピジェネティックな影響と(2)雌の色覚関連遺伝子の発現に与える影響を検出した。高βカロテン条件、低βカロテン条件(βカロテンなし)で飼育した雌個体を実験に用いた。雌の眼と脳のエピジェネティックな変化を比較するため、全ゲノムバイサルファイトシーケンスを行い、DNAメチル化状態が異なる遺伝子を検出した。雌のDNAメチル化状態が変化は、眼の高βカロテン条件でDNAメチル化が増加していた遺伝子(45遺伝子)には色覚関連遺伝子が多く(14遺伝子)、脳の高βカロテン条件でDNAメチル化が増加していた遺伝子(43遺伝子)には神経伝達に関係する遺伝子が多い傾向があった(13遺伝子)。遺伝子発現量においては、高βカロテン条件でオプシン遺伝子RH2-2の発現量が低く、イオンチャネル遺伝子CNGB3の発現量が高い傾向にあった。また、βカロテン条件と遺伝子発現が雌のオレンジ雄選好性に与える効果について検定した。その結果、オプシン遺伝子LWS-1において、全体では発現量が高いほど選好性が高くなり、低カロテノイド条件では発現量が高いほど選好性が低くなる傾向がみられ、βカロテン条件によって発現量の効果が選好性に与える影響に異なる傾向があった。錐体ロドプシンキナーゼ遺伝子GRK7Aにおいては、全体では発現量が高いほど選好性が低くなるが、低カロテノイド条件では発現量が高いほど発現量は選好性が高くなる傾向がみられ、βカロテン条件によって発現量の効果が選好性に与える影響に異なる傾向があった。
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