研究課題/領域番号 |
15H04420
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
吉村 仁 静岡大学, 創造科学技術大学院, 教授 (10291957)
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研究分担者 |
長谷川 英祐 北海道大学, 農学研究院, 准教授 (40301874)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 動的行動 / 動的ゲーム理論 / 変動環境 / 動的最適化 / 存続システム |
研究実績の概要 |
本年度は3年目であるが、動的行動の理論の応用として鳥類のメスの浮気が理論的にベット・ヘッジで説明できることを示した。1990年代にDNAフィンガープリンティングの技術の確立に伴い、多くの番い(つがい;ペア)を造る鳥類の親とヒナの親子鑑定が実施された。この結果は驚くべき事実を暴露した。育てているヒナの中にペアのオスの遺伝子を持っていない鳥が多く見つかったのである。つまり、メスの浮気の事実が判明した。種によって大きな変異があるが平均では4-5卵に1卵の割合で浮気が発覚した。この事実の暴露は、DNAによる親子鑑定の結果だが、24時間体制でメスの行動観察から巣の近くの繁み(藪の中)での浮気が観察された。浮気の普遍的な原因としてペアメスのベット・ヘッジ(リスク回避)の説明が考えられたが、本研究は幾何平均適応度を用いて世界ではじめてメスの浮気の適応性を証明した。つまり、メス親にとって、浮気により子孫全滅のリスク回避ができることが証明された。この証明は、生物進化において、絶滅回避(幾何平均適応度の最大化)が従来の算術平均適応度(瞬間増加率)で示せなかった適応を証明する新しい事例である。また、ペアを造る動物においてメス(人を含む)の浮気が適応的になることを示す初めての論文である(理論生物学の世界のトップ誌Journal of Theoretical Biologyに掲載)。このほか集団意思決定が個々のユニットのイエス/ノー(on/off)の判断の集合でできることを示し、脳の基本モデルで、量的判断がニューロン細胞の集合により可能なことを証明した(Nature Publishing GroupのScientific Reportsに掲載)。その他、周期ゼミの進化、植物の群落の多種共存・多様性の維持、絶滅回避の適応など進化・共存に関する多くの論文を合計7報掲載または掲載決定にこぎつけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本課題の理論の中心的な課題の応用である「メスの浮気の適応性」の論文を、国際一流誌のJournal of Theoretical Biologyに掲載した。また、「脳の基礎モデルとなる集合意思決定」の論文をネイチャー系オンライン姉妹誌であるScientific Reportsに掲載した。また、周期ゼミの遺伝情報解析の論文をNature Publishing Groupの新雑誌のCommunications Biologyに掲載した。さらに、植物群落の共存機構と多様性の論文を生態・進化の国際一流誌のEcology and Evolutionに掲載、蝶類のシータテハの越冬機構の論文を昆虫生理の国際一流誌のJournal of Insect Physiologyに掲載など合計7通となった。これは本来の計画の倍以上の成果である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、動的ゲーム理論をさらに多くの分野へ展開・応用して、その結果の論文の投稿を模索する。また、動的効用関数の経済行動(ポートフォリオなど経営科学およびミクロ経済学)への応用を開始する。実証研究では、アリマキやアリ・シロアリなどの社会性昆虫での行動動態の最適化・共同作業の利益の最適化などがコロニー存続へどのような貢献をするかを検討する。さらに、変動環境における存続システムとしての生物を考えて、動物や昆虫だけでなく、植物も含めて、生長・繁殖戦略がどのように最適化されるかを検討様々な分野、様々なトピックで、動的最適化の適用を試みる。
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