研究課題
コミカンソウ科における送粉様式の全貌を明らかにするため、送粉様式の分かっていない種群について、日本およびペルーで調査を行った。昨年度の調査から日本のコバンノキは赤紫色の花をつけ、雄花に虫えいを形成するタマバエが重要な送粉者であることが分かってきたが、近縁のドナンコバンノキ(国内では与那国島にのみ生育)の花は薄黄色で、花蜜と花粉を採餌するハナバチとハナアブが主な送粉者であることが分かった。またペルーでは、新大陸に固有のXylophylla亜属およびNothoclema節(いずれもコミカンソウ属)の計4種の送粉様式を調査した。4種すべてで種子食性ハナホソガが見つかったが、ハナホソガは膨らみ始めた若い果実に産卵しており、送粉行動をもたない寄生性の種であることが分かった。代替の送粉者として、ペルーでもタマバエが見つかったほか、種によってはアザミウマが送粉者となっている可能性がある。コバンノキに代表される赤紫色の花は、被子植物のさまざまな科でみられるが、その多くが長角亜目の双翅類に送粉されており、これらの昆虫による送粉がこれまで考えられてきた以上に一般的であることが分かりつつある。これらの野外調査と並行して、コミカンソウ科ーハナホソガ属共生系のこれまでの研究をまとめた英文書籍"Obligate Pollination Mutualism"を執筆した。さらに、種子食性昆虫による送粉がどのような条件で進化するのかについて理論的な側面から解析を行ったほか、オオシマコバンノキに見られる果実の柄がどのような役割を果たしているのかについての研究を推し進めた。
2: おおむね順調に進展している
これまで新大陸におけるコミカンソウ科とハナホソガ属の関係についてはまったく分かっていなかったが、両者が新大陸にも広く分布すること、さらに両者の関係が旧大陸のそれとは異なり寄生的であることが分かったのは大きな成果である。またコミカンソウ科におけるタマバエ媒の存在が、日本だけでなく新大陸にまで及んでいることも分かった。被子植物においてタマバエやキノコバエ類による送粉がかなり広く見られるという、新たな研究への展開も開けつつある。英文書籍"Obligate Pollination Mutualism"を通して、これまで得られた研究成果を世界に広く発信することができた。
平成29年度も引き続き送粉様式が明らかになっていない種群の生態解明に力を注ぐ。特にニューカレドニアで適応放散しているGomphidium亜属、および東南アジアに分布するEriococcus亜属(コミカンソウ属)、Sauropus属の生態解明は急務である。これらの調査と並び、ニューカレドニアのコミカンソウ属と、送粉者であるハナホソガ、タマバエの種特異性を詳細に明らかにし、送粉者や送粉様式の変化がどのように種分化に結びついているのかについて解析を進める予定である。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (1件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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