研究課題/領域番号 |
15H04421
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
川北 篤 京都大学, 生態学研究センター, 准教授 (80467399)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | コミカンソウ科 / タマバエ科 / ニューカレドニア / ハナホソガ属 / 虫えい / キノコバエ類 |
研究実績の概要 |
前年度までに、コミカンソウ属にはタマバエに受粉される種が複数存在するらしいことが分かってきたため、平成29年度はコミカンソウ属におけるタマバエ媒の生態解明に力を注いだ。コバンノキは、雄花に虫えいを作るタマバエに送粉されることがすでに分かっているが、虫えい形成性のタマバエのほかに、このタマバエに労働寄生するもう一種のタマバエがおり、後者が送粉者としてより重要であることが分かってきた。また、ニューカレドニアで適応放散したコミカンソウ属の一群には、コバンノキとは系統的に離れているが、花色、花のつき方、匂いなどがコバンノキと酷似する種があり、この種も同様に虫えい形成性のタマバエに送粉されていることが分かった。ニューカレドニアのコミカンソウ属には、種子寄生者であるハナホソガに送粉される種と、雄花寄生者であるタマバエに送粉される種の両方が存在するようだ。コミカンソウ属全体でみても、ハナホソガ媒とタマバエ媒の間での送粉様式の変化が双方向に何度も起こっているようである。 また種子寄生性のハナホソガに受粉されるカンコノキには、送粉性のハナホソガのほかに、送粉行動をほぼ欠き、雌花を虫えい化させるハナホソガがいるが、この種の詳しい送粉生態や、カンコノキの種子生産への影響などについて、貴重なデータが得られた。 さらに、前年度までに明らかになりつつあった、コミカンソウ科以外で赤紫色の花をつける植物の送粉生態についても大きな進展があった。ガリア科、ニシキギ科、マンサク科など5つの科に属する7種の植物が、いずれももっぱらキノコバエ類(キノコバエ科、クロバネキノコバエ科)に送粉されていることがわかった。赤紫色の花はこれまで特定の送粉様式と結びつけて考えられることはなかったが、キノコバエ媒と関連した新しい送粉シンドロームが存在する可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コミカンソウ属の送粉様式の全容解明に向けて、タマバエ媒植物の詳しい送粉生態が明らかになったことは重要な進展だった。また、共生性のハナホソガの中にも、二次的に寄生性になったものがかなりいることも分かってきており、コミカンソウ科植物がハナホソガ、タマバエ両者との共進化を通して花形質をさまざまに変化させながら多様化してきたことが分かりつつある。被子植物における赤紫色の花の生態については大きな進展があり、これまで考えられてきた以上にキノコバエ類による送粉が被子植物で一般的であることを示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、Eriococcus亜属(コミカンソウ属)、およびSauropus属植物の送粉生態解明を急ぐとともに、ニューカレドニアの100種を超えるコミカンソウ属植物で、ハナホソガ媒、タマバエ媒がどのように系統的に分布しているのかや、送粉様式の変化と種分化の関係などについても解析を深める。キノコバエ媒の植物については、近縁種との送粉様式の比較や、匂いの分析などを進め、送粉様式の進化がどのように植物の多様化と関わっているかを調べる。
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