研究課題
生物は、野外において競争者や餌、捕食者などさまざまな他種と相互作用をし、進化・表現型可塑性・行動選択によって適応し、また環境を自らに適応的なものへと改変する。生物群とそれらの物理環境とは互いに深く関連し、それらを含めたシステムがバイオスフェア=生態系である。生態系の構造と動態の理解をすすめるために、次の3つの視点に立った研究を集中的に行った:(1)生態系を構成するそれぞれの種の適応進化とそのインパクト:植物と菌根との関係をゲームモデルとして定式化した。海洋生物について性転換や矮雄などの多様な性表現の進化を解析した。後者については生理学的メカニズムを取り込むモデリングを展開し、性転換にかかる時間の進化について初めて解析できた。これは生理的メカニズムと進化生態学を結びつけようとする試みの1歩である。(2)種の多様性の生成と喪失の速度に関する数理:種分化については、地理的に隔離された島状の生息地で異なる遺伝子が蓄積することと稀に移住が生じることの組み合わせで、少数の島からでも多数の種数がつくりだされる過程を確率過程で解析した。その結果中間の移住率で種の生成速度が最大になることを見出した。この結果はより一般的な状況でも成立する。(3)人間社会の選択動態と生態系動態の結合システム:モンゴルの遊牧民の移動、インドネシアの森林の違法伐採などについて取り上げた。生態系と社会系の結合ダイナミックスのモデリングとして着実に成果があがった。
1: 当初の計画以上に進展している
いずれのテーマについても、順調に成果があがった。とくに側所的種分化に関する一連の理論研究は、過去20年の種分化理論がすべて生態的適応にもとずいたものであるのと対照的に全く独自の視点をもったものであり、地理的構造の重要性をしてきするものである。熱帯林では違法伐採が非常に重大な問題であり、行われている伐採の8割程度が違法であるとされていることを考えると、生態学・進化生物学だけでは保全は達成できない。モニタリング、地域住民の合意、利益配分、その他の社会科学的な側面をとりこまないと熱帯林保全は達成できない。それに対する重要な理論的貢献ができたとおもわれる。魚類の性転換については、それぞれの個体が自由自在に有利な性をとるとするゲームモデルによって理解することが標準理論となっているが、それに対して使用しない生殖巣を保持するとか、反応のための生化学系は組織を維持するといったことが、性転換速度に関連しそれが性転換にかかる時間を決定するとした新しいモデリングを提唱した。これは行動生態学と生理学/組織学との融合を目指す全く新しい研究方向をめざすものである。
初年度および繰越をもちいた第2年度の成果をもとに、さらに発展させる予定である。また論文としてはすでに多数が刊行されているが、投稿査読中のものも多数あるので、第3年度にはそれらがすべて出版されると期待できる。また国際会議などにおいてその成果を発表する予定である。
すべて 2017 2015 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 6件、 査読あり 11件、 謝辞記載あり 11件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 4件、 招待講演 9件) 図書 (4件) 備考 (1件)
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