研究課題/領域番号 |
15H04423
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
巌佐 庸 九州大学, 理学研究院, 教授 (70176535)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 植物と菌類の共生 / 海洋生物の性表現 / 人間/生態結合系 / モデリング / 生態=進化ダイナミックス / 残留型と降海型 |
研究実績の概要 |
生物は、野外において競争者や餌、捕食者などさまざまな他種と相互作用をし、進化・表現型可塑性・行動選択によって適応し、また環境を自らに適応的なものへと改変する。生物群とそれらの物理環境とは互いに深く関連し、それらを含めたシステムがバイオスフェア=生態系である。生態系の構造と動態の理解をすすめるために、次の3つの視点に立った研究を集中的に行った:(1)生態系を構成するそれぞれの種の適応進化とそのインパクト:(2)種の多様性の生成と喪失の速度に関する数理:(3)人間社会の選択動態と生態系動態の結合システム: このなかでも今年度は(1-1) 植物と菌根菌との共生/寄生関係の解析:について成果があがった。植物と菌根菌との間には、光合成で得た炭素と、土壌中からのリンを交換することによる共生が成立している。1個体の植物は多数の菌糸と相互作用をし,逆に1菌糸が多数の植物個体と相互作用する。相手のリンの供給が十分でないと、植物は炭素供給を抑制してより効率よくリンを供給する相手へと選び直す。菌根菌もまた相手の植物を選択する。予備的解析によると、その結果、通常のESS よりも遥かに高い協力状態が進化する。相互の選択がない植物と根粒菌(後者は相手を選べない)システムについても研究し、両者を対比する。 (1-2) 海洋生物の生活史と性表現のゲーム理論の展開:(1-3) 個体間の相互作用による群れ行動生成のモデリング:についても、それぞれに進展がなされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
人間の選択と生態系の動態とが結合したシステムについては、特に進展がみられた。まず以前より東大農学研究科の大黒教授のグループと共同研究で南モンゴルの遊牧民の放牧地選択とグラスの回復状況を結合した動態が、様々な非線形挙動を示すことを明らかにし、その論文が刊行された。加えて、九州大学農学研究院の藤原准教授とインドネシアの研究者との共同においてジャワ島において違法伐採がチークプランテーションの維持に脅威をあたえていたが、利益分配の施策により地元住民による監視努力が補われて違法伐採の問題がおさまったことがあり、それを2者の動的ゲームとして定式化した。またアグロフォレストリーは違法伐採の問題を拡大する可能性があることをしめした。これらは論文として投稿できた。 加えて、サケ科魚類の残留型と降海型との選択が稚魚サイズにより稚魚の成長が残留型成魚の密度に依存することから、2つの方の比率が非常に大きく変動するダイナミックスに至りやすいことを示した。加えて閾値サイズが適当的に進化する状況では、複数の進化平衡が存在することから、河川ごとに変動の様相が大きく変わる可能性を示した。 これらはいずれも当初の予想を上回るものであった。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成29年度には、平成28年度に起きた予想を超えた進展にもとづき、研究を展開する。まずインドネシアでの違法伐採を抑制する施策について集中的にとりくむ。他方でサケ類の密度依存的な生活史の分化(残留型と降海型)がもたらす進化的な側面いついての解析を進める。大規模なシミュレーションを行う一方で、社会科学と生態学を結びつける研究方向でトップを走っている世界の研究者を九州大学に読んで会議を開催することや、申請者や共同研究者がドイツやオランダ、アメリカなどの手法な数理生物学研究グループを訪ねて意見交換を行う。これらに必要な経費として繰り越した資金を用いる予定である。そして一連の論文として出版する。
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