夜間照明は我々の生活を安全にした反面、健康リスクを高める可能性が指摘されている。国際ガン研究機構(IARC)はシフトワークを“おそらく発癌性がある(グループ2A)”に指定している。このメカニズムとして、夜間照明によるメラトニン分泌抑制が示唆されている。このような光による生体への作用は、古くから知られている桿体細胞や錐体細胞といった光受容器ではなく、メラノプシン含有神経節(mRGCs)という新たに発見された光受容器に由来するとされている。mRGCsは古くから知られている光受容器とは光に対する時間応答特性が異なることが報告されている。つまり、同じ波長の光を同じ曝露量(光強度×時間)で曝露しても、短時間だけ発光する高速点滅光と一定に発光している光(定常光)ではmRGCsに対して異なる作用をする可能性がある。これまでの本研究課題成果より、高速点滅光が定常光よりもメラトニン分泌抑制効果が低くなるのは以下の条件であることが明らかとなった;①高速点滅光の点滅周波数が100HZ程度の場合であること、②光強度がある程度以上の強度であること、③光曝露開始直後(約15分程度)のみであること。しかし、これらの条件を考慮すると、メラトニン分泌抑制を軽減する高速点滅光を一般生活に応用するには限界があると言える。例えば、100Hzの点滅光はちらつきを感じ不快感や頭痛を生じさせる可能性がある。また、光曝露開始直後のみでしかその効果が得られないのであれば、一般家庭など照明を長時間使用する環境では効果が期待できない。そこで、本研究課題の最終年度として、メラトニン分泌を強く抑制する高速点滅光条件を検討した。具体的には、高速点滅光の点灯時間と消灯時間の割合(デューティー比)をこれまでの10%と異なる条件を用いた。その結果、デューティー比70%の高速点滅光は定常光よりもメラトニン分泌を強く抑制する可能性が示された。
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