研究課題
トウモロコシの近縁種であるZea nicaraguensisは強固な酸素漏出バリア(ROLバリア)を形成するのに対し、トウモロコシは部分的なROLバリアしか形成しない。Z. nicaraguensisのROLバリア形成を制御する染色体領域を特定するために、トウモロコシを遺伝的背景にZ. nicaraguensisの染色体断片を置換した染色体断片置換系統(introgression line、IL)シリーズ(42系統)のROLバリア形成能を評価した。その結果、1系統(系統名IL#11)のみがROLバリア形成を示し、他の系統との比較解析から、Z. nicaraguensis由来の3番染色体短腕上の領域にROLバリア形成の制御に関わる遺伝子座が座乗していることが明らかになった。さらに、ROLバリア形成を制御する遺伝子を同定するために、遺伝子マッピングによるROLバリア形成制御領域の絞り込みを行った。その結果、制御領域は3番染色体短腕上の約232 kbの領域に座乗していることが分かった。次に、アポプラスティックトレーサーを用いて溶質に対するアポプラスティックバリア形成を評価したところ、Z. nicaraguensisには形成されるが、トウモロコシには形成されないことが分かった。一方、この染色体領域をZ. nicaraguensisタイプホモ接合型で持つ系統の解析を行ったところ、この系統の根にはZ. nicaraguensisと同様に、溶質に対するアポプラスティックバリアが形成されることが分かった。このことから、3番染色体短腕上のROLバリア形成の制御に関わる遺伝子座は溶質に対するアポプラスティックバリア形成も制御していることが示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
平成28年度に3番染色体の短腕の候補領域で組換えが起こっている系統のROLバリア形成能を評価して、ROL バリア形成制御遺伝子の近傍(1 cM 以下)の DNA マーカーを作出する計画になっていたが、当初の計画より進捗して、候補領域を3番染色体短腕上の約232 kbの領域にまで絞り込むことに成功したため。
今後は、詳細な遺伝子マッピングを行うことによって候補領域を絞り込み、最終的に候補遺伝子を同定する。候補遺伝子の同定後、Z. nicaraguensisを用いて候補遺伝子の発現の組織特異性や嫌気ストレス誘導性などを調査し、その発現パターンがROLバリアの形成パターンと一致するかどうかを調査する。さらに、候補遺伝子の機能を明らかにするために、トウモロコシに候補遺伝子を導入して、形質転換体を作出する。作出された形質転換トウモロコシがROLバリアを形成する能力を獲得したかどうかを確認することで、同定した遺伝子が目的のROLバリア形成制御遺伝子であることを証明する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Plant, Cell & Environment
巻: 40 ページ: 304-316
10.1111/pce.12849