研究実績の概要 |
本研究は、倍数種形成を導く「F1雑種ゲノム倍加」の遺伝機構を解明し、この現象がイネ科植物でどのように進化してきたのかを明らかとすることを目的とする。申請者は、これまでに、特定のタルホコムギ系統(♂親)との交配において、正常に成長し高頻度にゲノム倍加(>50%)するF1雑種(3倍体)を生じる二粒系コムギ系統(タイプA)と、正常に成長するが完全に不稔となるF1雑種(3倍体)を生じる系統(タイプB)を発見した。タイプA二粒系コムギ由来のF1雑種は、2n配偶子を作り、遺伝的に安定な6倍体 F2種子を着ける。そこで、タイプAとタイプB二粒系コムギを交配して得たF1と上記タルホコムギを交配し、分離集団を作出した。3倍体個体から成るこの集団では、ゲノム倍加頻度が「高い個体」と「低い個体」が連続的に分離する。このため、適切な分子マーカーを用いて各個体をゲノタイピングして量的形質遺伝子座(QTL)解析することにより、F1雑種ゲノム倍加に関与するゲノム領域を探索できる。本年度は、(1)QTL解析用分離集団個体(374個体)からのゲノムDNA抽出、(2)分子マーカーを用いた分離集団個体のゲノタイピング、(3)分離集団個体のゲノム倍加頻度(すなわち、着粒率)の調査、を実施した。(1)と(2)については、DArT-seqマーカーを用いて分離集団をゲノタイピングし、各個体の遺伝子型を10,519遺伝子座で決定した。マーカーあたりの平均欠損値率は、10.4%であった。各遺伝子座での分離比は、概ね期待値(1:1)に合致し、歪みが極端に大きいものは、全体の約19%であった。(3)については、合計49,075小花(個体あたり平均131小花)を調査し、ゲノム倍加頻度データを得た。ゲノム倍加頻度の平均は9.5%であり、集団内では、0.0%~73.4%の範囲で分離した。
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