研究実績の概要 |
本研究は、倍数種形成を導く「F1雑種ゲノム倍加」の遺伝機構を解明し、この現象がイネ科植物でどのように進化してきたのかを明らかとすることを目的とする。申請者は、これまでに、特定のタルホコムギ系統(♂親)との交配において、正常に成長し高頻度にゲノム倍加(>50%)するF1雑種(3倍体)を生じる二粒系コムギ系統(タイプA)と、正常に成長するが完全に不稔となるF1雑種(3倍体)を生じる系統(タイプB)を発見した。タイプA二粒系コムギ由来のF1雑種は、2n配偶子を作り、遺伝的に安定な6倍体 F2種子を着ける。そこで、タイプAとタイプB二粒系コムギを交配して得たF1と上記タルホコムギを交配し、分離集団を作出した。3倍体個体から成るこの集団では、ゲノム倍加頻度が「高い個体」と「低い個体」が連続的に分離する。このため、適切な分子マーカーを用いて各個体をゲノタイピングして量的形質遺伝子座(QTL)解析することにより、F1雑種ゲノム倍加に関与するゲノム領域を探索できる。本年度は、(1)昨年度取得した分離集団(374個体)のゲノタイプ・データとゲノム倍加頻度データを用いたQTL解析、(2)分離集団の親系統の花粉母細胞の減数分裂比較観察によるF1雑種ゲノム倍加の細胞遺伝学的メカニズムの解析、を実施した。(1)については、欠損値5%以下、かつ分離比に極端な歪みがない3,657遺伝子座を用いて複合区間マッピング法でQTL解析を行い、閾値を超えるシグナルを示す複数のゲノム領域を見出した。このうち1つの領域には、既知の減数分裂遺伝子が含まれることが示唆された。(2)については、タイプB由来の雑種の花粉母細胞では、タイプA由来のものに比べて、異常な細胞質分裂が極めて高頻度に生じることを見出した。このことは、減数分裂での細胞質分裂異常の発生頻度が、F1雑種ゲノム倍加の発現と関係することを示唆する。
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