研究課題
大型化する台風に耐える倒伏抵抗性極強のイネ多収品種を開発するためには、収量の増加とともに太稈や強稈質による強稈性の付与による倒伏抵抗性の向上が不可欠となる。穂、稈の形成過程の細胞分裂の両方に関わる多面発現遺伝子は、籾数増加と同時に太稈化し強稈となる.これらの遺伝子を複数集積することによって、さらに収量ポテンシャルと倒伏抵抗性の飛躍的な向上が可能となる。そこで本研究では、倒伏抵抗性極強の超多収品種を開発するため、強稈性と多収性の両方に関わる多面発現遺伝子を複数集積し、その集積効果の発現機構を解明することを目的とする。平成27年度は、強稈遺伝子の3集積系統の倒伏抵抗性、多収性の集積効果と、4集積系統の作出を行った。稈の太さに関わる断面係数,断面二次モーメントは集積により増加し、特に3集積系統のSCM1+2+3は挫折型に関わる挫折時モーメントが高く、断面二次モーメントに加えてヤング率が大きいためにたわみ型に関わる曲げ剛性も大きかった。人工台風試験ではコシヒカリが挫折型倒伏する一方で、SCM1+2+3およびSCM1+2+4の両方でコシヒカリよりも有意にたわみ角度が小さく,とくにSCM1+2+3がより小さくなった。皮層繊維組織はSCM1+2+3、SCM1で大きく、SCM4で小さかった。多収遺伝子Gn1、FC1、APO1を含むSCM1+2+3は1㎡あたり穂数と千粒重で有意に少なく、逆に2次枝梗数および2次枝梗穎花数の増加により1穂穎花数が有意に増加した。以上の結果から、ハバタキおよび中国117号に由来する断面係数を高める対立遺伝子を3つ集積した系統の中では、SCM1+2+3が挫折型およびたわみ型倒伏に関わる稈の太さおよび稈質で優れていること、異なる強稈品種のもつ有用な複数のQTLの集積によって倒伏抵抗性を付与できることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
年度初めに計画していた強稈遺伝子の集積系統の育成に一部遅れを生じたが、繰越し期間を延長して実施した結果、当初の予定通り、すべての3集積系統を育成し、4集積系統の作出を行うことができた。これまでに強稈遺伝子SCM1からSCM4の3集積系統の強稈性、倒伏抵抗性、多収性の評価を予定通り行い、強稈遺伝子の集積効果があり、組み合わせによって異なること、強稈遺伝子の多面発現として多収遺伝子APO1、Gn1、FC1にも集積効果があることを明らかにしており、おおむね順調に進展している。
今後は、4集積系統までの2,3,4集積系統すべての強稈性、多収性に対する集積効果と組み合わせによる違いを検討する。組み合わせによって集積効果が異なる生理機構を解明するため、太稈に関わる稈の細胞分裂、多収に関わる穂の形態形成過程の茎頂分裂組織のサイズ、細胞分裂とそれらの形質に関わるGn1、FC1、APO1など原因遺伝子の発現量、発現時期、および遺伝子組み合わせ間の相互作用を解析する。これらの検討を通じて、強稈、多収遺伝子の集積効果の発現機構を解明し、集積による倒伏抵抗性、収量の増加を実証する。
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