研究実績の概要 |
ニホンナシの「自家不和合性」を制御するSハプロタイプには雌ずい側S因子であるS-RNaseと花粉側S因子となる複数のF-boxタンパク質遺伝子(PpSFBB)がコードされている. 本研究では, ニホンナシの9つのハプロタイプにコードされるPpSFBB群を掌握し, それらが分担してS-RNaseを無毒化する機構を解析することを目的としている. 本年度は, S3-とS4-RNase周辺領域のBACコンティグの拡張を進めると共に, S2-とS4-RNase周辺領域の未解読のBACクローンを次世代シークエンサーPacBio RSIIで解析し, 得られたロングリード配列をアッセンブルすることで, ゲノム配列を決定した. その結果, S2BACコンティグ配列はS2-RNase上流341kbから下流480kbまで拡張された.拡張域にはPpSFBB様配列は検出されなかったことから, S2ハプロタイプがコードするPpSFBB2 は18個(PpSFBB2-u1 ~ -u10, -d1 ~ -d8)であることが検証された. 一方, S4BACコンティグ配列はS4-RNase上流約499kbから下流約600kbまで拡張された. HMMERによるPpSFBB様配列プロファイル検索により15個のPpSFBB4が見出され, そのうち11個はPpSFBB2 群と高い相同性を示した. S2-RNase下流とS4-RNase上流域の最外部100kbの配列は高度に保存されており, これら領域はS遺伝子座外である可能性が示唆された. 一方で, S4ホモ花粉のRNA-seqデータをPpSFBB2群と4群にマッピングしたところ, 新たに5個のPpSFBB4が検出され, これらはS4BACコンティグ配列の外側に存在すると考えられた. 花粉管縦断面の微細構造を把握するため, 和合・不和合受粉した24時間後の花柱ブロックを作成した。ブロックを花粉管誘導組織まで切削した後, アニリンブルー染色により花粉管の多い切断面を見出し, 試料片を再包埋したFIB-SEM用試料を作製した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
次世代シークエンサーPacBio RSIIを用いてBACクローンの配列を解析することで, S4-RNase周辺領域のゲノム構造解析が加速的に進展した. Sホモ花粉のRNA-seqデータからde novoアセンブルも試みたが, 多重遺伝子であるPpSFBBの再構築は困難であったことから, BACコンティグ配列上に新規PpSFBBを見出し, それらを参照配列として利用していくという我々の戦略の妥当性が支持された. S3-とS4-RNase周辺領域のBACコンティグの拡張, ならびSホモ花粉からの各PpSFBB対立遺伝子のクローニングも順調に進んでいる. しかしながら, 電子顕微鏡解析はブロックの重合不良等が発生し, 遅れている.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き, S3-とS4-RNase周辺領域のBACコンティグを拡張する. 次世代シークエンサーPacBio RSIIによるBACクローンの配列解析を進め, BACコンティグ配列を拡張し, S4ハプロタイプがコードするPpSFBB4群を掌握するする。S4BACコンティグ配列にS4とS4smホモ花粉のRNA-seqデータをマッピングすることで, PpSFBB4群と4sm群間でPpSFBB4-d1以外に変異がないかを検証する. 一方で, 花粉管誘導組織の縦断面の試料をFIB-SEMで観察し, 受粉24時間後の和合・不和合花粉管の微細構造を把握する.
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