研究課題/領域番号 |
15H04455
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
佐野 輝男 弘前大学, 農学生命科学部, 教授 (30142699)
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研究分担者 |
種田 晃人 弘前大学, 理工学研究科, 准教授 (70332492)
葛西 厚史 弘前大学, 農学生命科学部, 研究員 (80633982)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ウイロイド / RNAサイレンシング / DCL2 / DCL4 / AGO2 / RDR6 / 形質転換トマト / マイクロRNA |
研究実績の概要 |
ウイロイドの病原性発現とRNAサイレンシングの関係を明らかにするため、6 種類の主要PSTVd-sRNA の逆向き反復配列をアグロバクテリウム法で遺伝子導入し、3種8系統(T3)の形質転換トマトを作出した。hpPSTVd-256P-P’系統は顕著な矮性形質を示し、全8系統がPSTVdに感染し糸葉や奇形症状を呈した。 miR159とmiR319の標的配列の擬態RNAを発現する形質転換トマト3系統(T3)を作出・選抜した。 RNAiでAGO2、DCL2/DCL4、RDR6、ジベレリンβ水酸化酵素遺伝子発現をノックダウンした形質転換トマトを作出し、順に5、3、3、3、5系統の形質転換体(T3)を選抜した。AGO2では81I、DCL2/DCL4では72E、RDR6では91B、ジベレリンでは1-1系統で高濃度のトランスジーン転写物とそのsiRNAが蓄積していた。hpDCL2/4i-72E系統はウイロイドに対する感受性が増大した。 ウイロイド由来スモールRNAが宿主の相同遺伝子の発現制御を阻害する可能性を調査するため、PSTVd-sRNAと相同配列を有するトマト遺伝子を探索し、PSTVd+鎖の35-55番、39-59番、119-139番から生成するPSTVd-sRNAが順に機能未知の遺伝子、カロース合成酵素遺伝子、ジベレリンβ水酸化酵素遺伝子を標的とする可能性を見出した。amiRNA検定システムを構築し、PSTVd-sRNA39Pがカロース合成酵素遺伝子発現を阻害する可能性を示した。AFCVd感染トマトのAFCVd-sRNAのディープシークエンス解析を行ない、ジベレリンやフラボノイド生合成系遺伝子群中の標的候補配列を見出した。 PSTVdの様々な配列由来のヘアピン-RNAを発現する形質転換N.benthaminaのPSTVd抵抗性を評価し、抵抗性系統で増殖したPSTVd変異率の解析結果に基づき、ウイロイドが標的部位に変異を起こしてRNA サイレンシングを回避するという仮説は支持されないことを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通りにAGO2、DCL2/DCL4、RDR6遺伝子発現量をRNAiでノックダウンした形質転換トマト系統を選抜育成し、期待以上に高濃度のトランスジーンを発現し且つ高濃度のsiRNAを蓄積しているT3ホモ系統が各種で最低1系統作出できた。特に、DCL2/DCL4の2重ノックダウン系統は複数のウイロイド(PSTVd、AFCVd、HSVd)に対する感受性が顕著に増大し、非形質転換対照区にはほとんど病徴を現わさないHSVdとAFCVdでも明瞭な矮化・葉巻症状が観察された。この結果から、DCL2/DCL4がウイロイド感染・増殖に対する強力な防御力となっていることが判明し、ウイロイド抵抗性作物(トマトやジャガイモなど)の育種・創出戦略に関わる重要な知見が得られ、2年目以降の新たな進展が期待される状況になった。 また、海外共同研究者との共同研究で、新たにPSTVd-sRNA39Pがトマトのカロース合成酵素遺伝子発現をRNAサイレンシングを介して阻害する可能性を実験的に証明し、研究の初年目で、ウイロイド由来のスモールRNAが宿主の相同遺伝子の発現を阻害して病原性を示す新しい実例を提案することができた。 また、PSTVdに加えてAFCVd由来のスモールRNAのディープシークエンス解析が完了し、AFCVd-sRNAがAFCVd感染で生じる病徴の特徴と関わる植物ホルモン(ジベレリンなど)やフラボノイド生合成系の重要遺伝子と複数の相同配列を有することを明らかにすることができた。この結果を基に2年目以降の分析対象遺伝子をより明確に絞り込むことが可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
1. ウイロイド由来のスモールRNAとmiR159、miR319、それ以外のmiRNAs、GAI(DELLA)、GAMYB、LEAFY、ジベレリンβ水酸化酵素(フラボノール合成酵素)遺伝子発現の関連性の検討:① 平成27年までに育成・選抜したRNAサイレンシングのキー因子遺伝子及びジベレリンβ水酸化酵素遺伝子発現をRNAiでノックダウンした形質転換トマト(品種:Money maker)のうち、hpDCL2/4i-72E、hpRDR6i-91B、hpAGO2i-81I、hpGibHi-1-1系統に焦点を絞り、ウイロイド感受性の変化、ウイロイド感染によるmiRNAs、GAI(DELLA)、GAMYB、LEAFY、ジベレリンβ水酸化酵素遺伝子発現量の変化を分析・評価する。② miR159とmiR319の疑似標的配列を発現する形質転換トマトMIM159(3系統)とMIM319(3系統)に関し、導入した擬似分子の発現とmiR159で発現制御される転写因子GAMYBとLEAFYの発現量の変化を分析する。 2. ウイロイド由来スモールRNAの標的候補遺伝子の探索と実験的検証:PSTVdとAFCVdのスモールRNAの主要分子から予測した標的候補遺伝子の配列情報に基づき、amiRNA法による評価実験を進める。 3. ウイロイド抵抗性植物とウイロイドのRNAサイレンシング耐性機構の分析:①主要なPSTVd-sRNA配列に由来する遺伝子導入を確認したトマト6種11系統にPSTVdを接種し、ウイロイド抵抗性と病徴発現の変化を分析する。② DCL2と4をノックダウンした形質転換トマト系統のウイロイド感受性の変化から、DCL2と4がウイロイドの病徴発現のキー因子である可能性が示唆されたので、新たにPSTVd感受性の異なるトマト品種のDCL2、4発現量の違いを分析する。
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