研究課題
植物病原糸状菌はエフェクターと呼ばれる分泌タンパク質を駆使することにより、植物免疫機構に干渉し感染を成立させていると推定される。申請者は様々な植物病原糸状菌に保存されているエフェクターNIS1を炭疽病菌より同定し、その機能を解析している。これまでにNIS1の発現により複数の植物免疫抑制反応が抑制されること、さらにNIS1がPAMP誘導型免疫システムの構成因子であるBAK1と結合することを発見している。また、イネいもち病菌のNIS1ホモログの標的破壊株では病原性が劇的に低下することを見出している。これらの結果より、NIS1は植物病原糸状菌に保存された重要エフェクターであることが推察される。本研究ではNIS1によるBAK1への結合の生理機能について、BAK1機能への阻害効果解析により明らかにする。さらにNIS1のBAK1以外の標的を同定し、その免疫抑制能の全貌に迫ることを主たる目的としている。本年度は第一に NIS1とBAK1の結合によって、BAK1の機能が阻害されるかをin vitroリン酸化アッセイで調査した。その結果、NIS1はBAK1のリン酸化を明確に阻害することが判明した。また、NIS1が、BAK1の細胞質領域に結合することを明らかにし、これは膜貫通型キナーゼではないBIK1とNIS1の相互作用をさらに支持するものである。NIS1側についてはカルボキシル末端の30アミノ酸を削ってもBAK1との結合能は保持されている一方、60アミノ酸を削った場合、その結合能は消失し、このことより、NIS1のカルボキシル末端60アミノ酸がその結合に必要であることが示唆された。さらにアブラナ科炭疽病菌およびイネいもち病菌のNIS1ホモログが、ウリ類炭疽病菌のNIS1と同様にflg22が誘導する活性酸素生成を抑制することを明らかにし、エフェクター機能の保存性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画に沿い研究を進め、研究実績の概要において述べたとおり、着実に成果が得られている。まず、NIS1の結合によってBAK1のリン酸化能が阻害されることををin vitroリン酸化アッセイによって明らかにし、このことは、NIS1のエフェクター機能の解明において非常に重要な発見であると考えている。さらにNIS1とBAK1の結合領域についても、そのアウトラインを明らかにできた点は、意義深いものである。これらより、本年度は、おおむね順調に進展していると評価している。
研究はとてもスムーズに進展しており、引き続きこのペースが落ちないように、随時、状況に対する検証をかけながら、本研究を推進 していきたい。まず、本年度の解析でウリ類炭疽病菌のNIS1がBAK1のリン酸化能を阻害することを明らかにしたが、BIK1のリン酸化能を阻害するかは不明であり、引き続きこの点について研究をすすめていきたい。さらに、BIK1についてはNIS1がBIK1と活性酸素生成酵素であるRbohDとの相互作用を阻害するかについても解析をおこなっていく予定である。また、NIS1がBAK1およびBIK1を標的としていることを示す結果をうけて、シロイヌナズナにおいてBAK1およびBIK1への変異が適応型および不適応型の炭疽病菌への抵抗性などに影響をあたえるかを調査し、炭疽病菌への植物抵抗性におけるBAK1およびBIK1の貢献度について調査をしていく予定である。上記の計画研究を軸に 、同時に得られた成果を踏まえつつ、エフェクターNIS1の機能解明に向けての研究を効果的に推進していきたい。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
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