研究課題/領域番号 |
15H04458
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
一瀬 勇規 岡山大学, 環境生命科学研究科, 教授 (50213004)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 菌体密度感知機構 / アシルホモセリンラクトン / PsyR / 転写制御 / タイプIII分泌システム / Hrp |
研究実績の概要 |
本研究では、菌体密度転写因子PsyR (AhlR)と標的遺伝子プロモーターに対する結合解析と、各種菌体密度感知機構関連遺伝子の変異株等を活用した分子遺伝学的解析を行なった。前者では、大腸菌を用いて発現させたPsyR組換えタンパク質は、psyIの上流に保存されるlux box様配列に結合することが明らかとなった。この結合にはアシルホモセリンラクトン(AHL)は必要とされなかった。PsyRはhrpLプロモーターとも結合したが、結合配列は特定に至っていない。また、多剤排出ポンプ遺伝子mexEF-oprNの正の転写因子遺伝子mexTを高発現させることによりAHLの蓄積は阻害されること、fliC欠損変異株,aefR欠損変異株にmexF遺伝子に変異を導入するとAHL生産が回復すること、lux boxを欠損させた変異株ではAHLを蓄積しないことを見出した。これらの知見はPsyRがpsyIの正の転写因子であること、mexEF-oprNはAHL生産の負の制御因子として機能することを示している。更に菌体密度感知機構で発現が変動する遺伝子のプロモーターにlacZYA遺伝子を連結させることにより、ベータガラクトシダーゼ活性で遺伝子発現の変動をモニターできる系を作出した。例えばpsyI欠損変異株にAHLを添加するとpsyIプロモーターの転写活性化が確認された。また、Pta6605とPsyB728aの両菌株で∆IR欠損変異株を作出するとともに、それらの菌株にPta6605あるいはPsyB728a由来のIR遺伝子を相補させた株を作出したところ、PsyB728aよりPta6605でAHL合成能が高い原因は、psyIR遺伝子そのものの違いによる原因とpsyI遺伝子の発現を制御する他の制御遺伝子の活性に起因する場合があると推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
菌体密度感知機構転写因子であるPta6605のPsyR, PsyB728aのAhlRの生化学的機能においては、両組換えタンパク質を大腸菌を用いて大量に生産・精製できる系を確立し、それぞれがpsyI, ahlIのプロモーターに保存されるlux boxに結合することを見出している。また、菌体密度感知機構の遺伝学的解析においては、mexEF-oprNの正の転写制御因子遺伝子であるmexTの高発現により、AHL生産が阻害されること、MexEF-OprNはAHL生産の負の制御因子として機能することを見出している。さらに両菌株でIR欠損変異株を作出するとともに、広宿主範囲プラスミドを用いてpsyRあるいはahlRを高発現させる系を構築済みである。また、解析対象のT3SS関連遺伝子プロモーターにレポーター遺伝子であるlacZYA遺伝子を連結させた遺伝子の導入系を確立したので、今後、T3SS遺伝子の発現をβガラクトシダーゼの活性としてモニターすることが可能となった。これらの実験系に加え、外部からアシルホモセリンラクトンを供給した時の遺伝子発現応答を解析することにより、PsyR (AhlR)の機能解析・T3SS遺伝子の発現制御など病原力における役割を解明できると思われる.
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今後の研究の推進方策 |
菌体密度感知機構転写因子であるPta6605のPsyR, PsyB728aのAhlRを組換えタンパク質として生産させる系が確立しているので、推定標的候補遺伝子との結合能を解析する。また、両菌のIR欠損変異株を作出するとともに、広宿主範囲プラスミドを用いたpsyR,ahlRの高発現系とT3SS関連遺伝子プロモーターにレポーター遺伝子であるlacZYA遺伝子を連結させたモニター系が確立済みであるので、様々な遺伝子型の細菌を用いて、PsyR (AhlR)の機能解析・T3SS遺伝子の発現制御機構を含む病原力における役割を解析する。
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