遠心により生体膜を除去した脱液胞化タバコプロトプラスト抽出液(mdBYL)を用いてタバコモザイクウイルス (TMV) RNAを翻訳すると、130K複製タンパク質が合成される。このとき130Kタンパク質は、翻訳と共役してゲノムRNAの5'非翻訳領域を含む約70ヌクレオチドの領域に結合し、非膜結合性複合体 (pre-membrane-targeting complex: PMTC) を形成する。PMTCは複製複合体の前駆複合体と考えられている。我々は先に、130Kタンパク質のN末端側に相当するMetIR断片(分子量約7万)が、翻訳とは独立してTMV RNAの当該領域に結合することを見いだした。本年度は、PMTCに宿主因子が含まれる可能性を検討するため、FLAGタグを付したMetIRと結合標的配列を含むRNAを混合して複合体を形成させた後に抗FLAG抗体による精製を行った。精製画分にはMetIRに加え、分子量約10万の宿主タンパク質が含まれ、これをLC-MS/MS法により同定した。この宿主タンパク質は、標的RNAを添加しなければMetIRと共精製されなかった。この宿主タンパク質がTMV RNAの複製あるいはPMTC形成に関与するかは不明のままであり、それを明らかにすることは今後の課題である。昨年度から取り組んでいる電子顕微鏡によるPMTCの観察に関しては、いくつかの方法改変を試みたが、その形態に関して確定的な情報を得るには至らなかった。また、アフィニティー精製したMetIRと結合標的配列を含むRNAを混合しても複合体は形成されないが、mdBYLを添加すると複合体が形成されることを見いだした。この結果は、PMTC形成に宿主因子が必要であることを示唆するものである。
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