研究課題/領域番号 |
15H04464
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
今野 浩太郎 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門 昆虫制御研究領域, 上級研究員 (00355744)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | シュウ酸カルシウム針状結晶 / 相乗的耐虫効果 / キチナーゼ / ヤマノイモ / ポトス |
研究実績の概要 |
単独では昆虫(エリサン)に対する耐虫性(成長阻害活性)が弱いシュウ酸カルシウム針状結晶とヤマノイモ葉水抽出液が共存すると顕著な相乗的耐虫効果を示すこと、ストレプトマイセス由来のキチナーゼが針状結晶と相乗的耐虫効果を示すこと、ヤマノイモ葉抽出液にキチナーゼ活性を検出したことなどこれまでに得た証拠から、本年度はヤマノイモ葉抽出液中の針状結晶と相乗的耐虫効果を示す成分がキチナーゼか検討した。ヤマノイモ葉水抽出液中に含まれる耐虫成分をNativePAGE電気泳動を用いて分離し、バンドを切り出し、ヒマの葉に針状結晶と共に塗布しエリサンに食べさせることにより、相乗的耐虫活性のバイオアッセイを行った。一方、電気泳動したゲルを可溶化キチンを含むアガロースゲルに転写し、キチンに結合して蛍光を発するカルコフラワーで染色し紫外線照射を行い光らず黒いバンドとして残る部分をキチナーゼ活性部分として特定した。その結果、ゲル上方に存在する非常に細いキチナーゼ活性を示すバンドと針状結晶と完全に一致した。このことからヤマノイモにおいて、葉のシュウ酸カルシウム針状結晶とキチナーゼが相乗的耐虫効果を表すことが判明した。この結果は、植物のキチナーゼが顕著な耐虫効果を示す植物の耐虫性タンパクであることを明示した数少ない例である。 昨年度、ポトスの葉をエリサン幼虫に摂食させた場合、顎を開閉し頭部を持ち上げて左右に振る顕著な摂食拒否行動を示すことを発見したが、その原因物質の特定に向けポトス葉からの抽出法を検討した。最初水中で葉をすりつぶす方法で活性の抽出を試みたがこの方法では活性の抽出に完全に失敗した。しかしポトスの葉をヘキサン・へブタン等の有機溶媒中ですりつぶして抽出し遠心で沈殿を回収することで、完全な摂食拒否行動を誘起する摂食拒否活性を抽出することに成功した。そしてこの沈殿物はほとんど針状結晶のみからなっていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、植物のプロテアーゼ(キウイフルーツ)がシュウ酸カルシウム針状結晶と相乗的耐虫効果を示すことを明らかにしたが、今回ヤマノイモ葉においてキチナーゼがシュウ酸カルシウム針状結晶と相乗的耐虫効果を示すことを明らかにしたことは、植物におけるシュウ酸カルシウム針状結晶と防御物質(タンパク質)の相乗的耐虫効果の一般性を示すものとして非常に価値が高い。また、これまで昆虫の食害による葉の傷害において誘導されてくることが知られていたキチナーゼは、昆虫の主要成分であるキチンを分解することから、植物の昆虫に対する防御タンパク質でないかと推測されていた。しかし、キチナーゼを昆虫に摂食させる肝心なバイオアッセイにおいてほとんど耐虫性(致死性・昆虫成長阻害活性)を示さないことがキチナーゼが植物の耐虫タンパク質であるという仮説の弱点であった。しかし、今回の結果は植物のキチナーゼがある特定の条件下(今回の結果ではシュウ酸カルシウムとの共存条件下)では顕著な耐虫性を示すことを明確に示した点で非常に大きな意味がある。さらに、サトイモ科植物のポトスで顕著な耐虫性活性(顕著な摂食拒否活性)を保った状態のシュウ酸カルシウムの針状結晶を葉から有機溶媒を用いて抽出することに成功した。この抽出法の開発は今後サトイモかの植物に含まれるシュウ酸カルシウム針状結晶による顕著な摂食防御活性やヒトに対する顕著な痛み活性を物質的に理解するうえでブレークスルーともいえるもので、今後の研究の進展が期待される。この意味で、現在までの研究進捗状況は概ね順調であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
ヤマノイモの葉抽出液には研究実績の概要で述べたキチナーゼ活性を示すバンドを含めて複数の針状結晶と相乗的耐虫性を示す画分(バンド)が存在していた。これらの活性画分に関してプロテオーム解析等を行うことで、含まれる耐虫性タンパク質の同定を試みる予定である。 またポトスに含まれる摂食拒否活性を保ったまま抽出精製してきたシュウ酸カルシウム針状結晶を多く含む画分に関しても、プロテオーム解析、メタボローム解析などの手法を用いて活性成分を特定する予定である。
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