研究課題/領域番号 |
15H04478
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
加藤 純一 広島大学, 先端物質科学研究科, 教授 (90231258)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 走化性 / 青枯病 / Ralstonia solanacearum / 植物感染 / 生物間相互作用 |
研究実績の概要 |
①ゲノム情報からRalstonia solanacearum Ps29株は22の走化性センサー遺伝子を有していることが分かっている。それら走化性センサーの機能特性化のためにすべての走化性センサー遺伝子を破壊した多重破壊株の構築を行い、それに成功した。②発現量の高さから植物感染に関与する走化性センサーを推定するために、土中及び植物中のR. solanacearumからRNAを抽出する方法を確立した。その方法により、a)トマトが植えられていない土の中の菌、b)トマト根圏に存在する菌、c)トマトに感染した菌からRNAを抽出し、それぞれの走化性センサー遺伝子に特異的なプライマーを用いた定量的RT-PCRにより転写量を測定した。いずれの遺伝子も転写量はb)>a)>c)の順であった。転写量が高かったのは、mcp05、mcp07、mcp09およびmcp14であった。このうちmcp14はリンゴ酸走化性センサーであるMcpMをコードしており、また、植物感染に関与していることが分かっている。③転写量が高かったmcp05、mcp07、mcp09およびmcp14の単独破壊株を用いてトマト感染実験を行った結果、mcp09とmcp14の変異株は親株よりも植物感染能が有意に低下していることが分かった。一方、mcp05とmcp07の単独変異株は親株と同等の感染能を示した。この結果から、植物感染に関与する新たな走化性センサー遺伝子としてmcp09を見出した。④Mcp09の走化性リガンドを特定するために、14の走化性センサー遺伝子を破壊した変異株にmcp09遺伝子を導入して走化性応答を測定することでスクリーニングしたところ、アガロース関連物質(まだ特定はできていない)を認識することが分かった。⑤R. solanacearumにGFP遺伝子を導入して蛍光標識し植物根傷口への接近を蛍光顕微鏡でモニタリングした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画の5項目の事項のうち4つは完遂した。このうち、発現量を指標にしての植物感染に関与する走化性センサーの推定は有効な手法であることが分かったことは、大きな成果である。まず、この手法ですでに植物感染への関与が判明していたMcp14(McpM)がスクリーニングされてきた。そして、このMcpMに加えて、新たに植物感染に関与する走化性センサーMcp09がスクリーニングできた。Mcp09の機能特性化は2016年度の重要な課題になる。また、R. solanacearumのすべての走化性センサー遺伝子を破壊した株が構築できたことも、今後の研究展開に寄与する成果である。構築した多重破壊株に単独の走化性センサー遺伝子を導入することで、他の走化性センサーの干渉なしに機能特性化ができる。実は、2015年度にその予備試験を行ったのであるが、意外な結果を得た。L-リンゴ酸走化性センサー遺伝子(mcpM)およびアミノ酸走化性センサー遺伝子(mcpA)を導入した場合、それぞれの走化性が復帰した。しかし、D-リンゴ酸走化性センサー(mcp03)を全破壊株に導入しても走化性応答は復帰しなかった。その一方、17の走化性センサー遺伝子を破壊した部分破壊株に導入したところ、D-リンゴ酸への応答が復帰した。2016年度ではこの理由を明らかにする計画である。GFP標識したR. solanacearumを用いることで、植物根の傷口に接近している菌体を可視化することができた。しかし、解像度が不足しており、2016年度ではより高解像度で観測できる技術を確立したい。この最後の項目以外の達成度は「(1)当初の計画以上に進展している」であるが、最後の項目は完遂されてはいないので(2)おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画のとおり研究を遂行する。2016年度は: ①走化性センサーの機能特性化。特に2015年度に植物感染に関与していることが分かったMcp09の機能特性化に注力する。 ②全破壊株、部分破壊株並びにすでに機能特性化がなされている走化性センサー(アミノ酸(mcpA)、L-リンゴ酸(mcpM)、D-リンゴ酸(mcp03)、クエン酸(mcp05)、リン酸(mcp16))の遺伝子の機能発現の要件について明らかにする。mcp03が全破壊株では機能せず、17遺伝子破壊株で機能したことは、この走化性センサーが機能するためには他の走化性センサーと協働することが必要なのかもしれない。これは、科学的な視点では、世界で初めての発見であり、是非原因を究明したい。応用的観点からすると、多重破壊株を用いて走化性センサーの機能特性化を行うには、この問題を克服しなければならない。一見回り道のようであるが、科学的にも応用的にも重要な事項であるので、2016年度の研究で力を入れたい。 ③トマト以外の植物が植えられている条件での走化性センサー遺伝子発現パターンを調べるための試験を開始する。まずは、タバコ、シロイロナズナなどの植物の栽培を行う。 ④植物根傷口への走化性を観測する技術の確立。 を行う。
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