研究課題/領域番号 |
15H04480
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中山 二郎 九州大学, 農学研究院, 准教授 (40217930)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | クオラムセンシング / グラム陽性細菌 / ウェルシュ菌 / アンタゴニスト / ペプチド / Clostridium difficile |
研究実績の概要 |
ヒト腸内細菌叢の中核を占めるクロストリジア綱細菌群には、善玉菌から悪玉菌そして病原菌も含まれ多種多様である。これまでの申請者らの研究および細菌ゲノム配列データから、このクロストリジアの多くが、種特異的な自己誘導環状ペプチド(AIP)を用いて同種菌間でコミュニケーションを行い、遺伝子の発現を特異的にコントロールし(クオラムセンシング:QS)、また、時には他種細菌のQSを干渉(クオラムクエンチングQQ)することが示されている。本研究では、ヒト腸内のクロストリジア綱細菌群のQSを網羅的に実態調査し、次にそのQSの阻害剤(QSI)を作出し、最後にそのQSの人為的制御による疾病回避や健康増進の可能性を追求する。平成27年度は、ガス壊疽および食中毒菌であるClostridium perfringens(ウェルシュ菌)のQSを阻害するペプチドの創製に取り組み、IC50 = 720 nMで活性を示すQSIペプチドを作出した。平成28年度は、ウェルシュ菌が自らQSをシャットダウンする機構(自己QQ)を有していることに着目し、そのメカニズムとして細胞外のpHを感知し、AIPのシグナル伝達系を止めていることを見出した。また、クロストリジア綱細菌群のAIPの構造を網羅的に解析するシステムとして、LC-MSMSを用いるシステムを構築した。その結果、C. perfringensのAIPについては、5 mlの培養液を用いて、対数増殖期前期から静止期にかけて、10 nMから200 nMの範囲のAIPを定量的に検出した。また、偽膜性大腸炎起因菌であるClostridium difficileおよび酪酸菌Clostridium butyricumについても培養液からのAIPの直接検出に成功した。今後、自己QQや合成品によるQQを巧みに利用した新しい抗感染症療法や健康増進法開拓に向けて研究を継続する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、C.perfringensの自己QQについての分子機構を詳細に解明することができた。また、クロストリジア綱細菌群のAIPを網羅的に検出するLCMSMS系も整備することができたので、おおむね順調に進展していると判断する。最終年度にむけて、一つでも多くの腸内クロストリジア綱細菌のクオラムセンシングの解明し、またそのin vivo制御法について可能性を追求する研究を展開していきたいと考える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の29年度は、当初の目標であった腸内共生菌クロストリジア綱細菌のクオラムセンシングの全体像を把握することに注力する。具体的には、(1)多様なヒト腸内共生菌コミュニティーの中核を形成するクロストリジア綱細菌、(2)偽膜性大腸炎起因菌のClostridium difficileや二次胆汁酸生産悪玉菌であるClostridium scindens、(3)プロバイオティクスとして長年の使用実績があるClostridium butyricumを始め、その他のクロストリジア綱細菌についても広くAIPの同定研究、QSIの創製研究、QS標的遺伝子の同定研究、腸管でのQQ現象の解明を進展させることを計画する。
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