研究課題
糖質は,構成糖と結合様式の組合せにより,極めて多様な種類を包含する.多くの機能性物質が存在すると考えられているが,機能性探索に先んじて多種多様な糖質の大量合成系確立が必須である.本研究では,一層高度な糖質合成系確立に向けて,(a)合成酵素と(b)転移酵素に注目する.これら酵素の高機能化・高度利用化研究を通し,基盤的で実用的な糖質大量生産技術確立を目的としている.(a)合成酵素利用での主要問題は,合成基質(糖ヌクレオチド)の供給である.現状高額なため用途が限定される.圧倒的に安価な材料からの効率的供給が望まれる.本研究では,これに対する解答として機能強化したショ糖合成酵素の効率的利用を提案したい.本酵素の利用により,ショ糖合成の逆反応(ショ糖の加UDP分解)により糖ヌクレオチドを合成できる.糖合成酵素と組合せたワンポット反応により,基質UDP-Glc等を効率的に供給できる.H27年度には,植物由来のショ糖合成酵素(大腸菌での組換え酵素)を調製し,本酵素の機能解析ならびに機能強化・改変を行った.本酵素は,既報植物酵素と同様,UDPに対する高い特異性を示しUDP-Glcを生成した.UDP特異性に関わる構造因子を決定し,大きく特異性を改変した変異酵素(ADP-Glc生成酵素)を作出した.また糖質合成酵素の一例としてリン酸化二糖合成酵素とのワンポット反応により,高濃度リン酸化二糖合成系を確立した.(b)転移酵素利用では,酵素種類の少なさが問題となる.既存酵素の理解・改良としては,酵素Dによるグリコシル転移反応における生成結合様式の特異性に関与するアミノ酸残基を同定した.本アミノ酸残基変異導入は,野生型では特定の分子への転移に伴い長鎖ポリマー生成がみられるのに対し,主に短鎖オリゴ糖を生成した.また,酵素D類縁の推定酵素タンパク質を生産・精製を行い,機能性の解析を進めている.
1: 当初の計画以上に進展している
(a)合成酵素利用:ショ糖合成の逆反応(ショ糖の加UDP分解)により糖ヌクレオチドを合成し,糖合成酵素と組み合わせたワンポット反応により,効率的糖質合成系の確立をめざしている.H27年度には,植物由来のショ糖合成酵素(大腸菌での組換え酵素)を調製し,機能解析ならびに機能強化・改変を行った.本酵素は,UDP, ADPともに基質としたが,特にUDPを好みUDP-Glcを生成した.本特異性に寄与する残基の特定,並びにタンパク質工学的手法によるADPに対して特異性の高い変異酵素(ADP-Glc生成酵素)の作出に成功した.これは本法をADP-Glcを糖供与体とした転移酵素にも適応可能とする優れた成果である.更にH28年度予定を前倒し,ショ糖合成酵素(野生型)は実際にリン酸化二糖合成酵素と組み合わせてワンポット反応を行い,近年機能性が注目されているリン酸化糖合成を行った.使用したUDPはわずか5 mMながら,ワンポットにおいて100 mMを越える濃度まで目的化合物を合成できる反応条件を見出した.(b) 転移酵素利用:転移酵素として可溶性澱粉などαグルカン類に作用できる酵素Dについて,①基質特異性,②伸長反応機構(特定分子への連続的Glc転移)に関する構造因子特定を進めた.連続的Glc転移の受容体となる分子は依然特定を待たれるが,転移により生成する結合の特異性を改変した酵素を用いた解析により,非特定の基質分子に対する逐次的Glc転移反応が生じると,転移反応におけるGlc供与体分子濃度が低下し,結果として長鎖の合成が減少することが認められた.酵素Dと配列類似性を有する類縁タンパク質D2およびD3については,大腸菌を用いた組換えタンパク質生産系を確立し,活性のスクリーニングと解析を進めている.現状,酵素Dと異なり短鎖生成物を生成する転移酵素が確認されている.
本研究のキーとなるポイントは,H27年度研究により明確に示すことができた.すわなち,(a)合成酵素においては「ショ糖合成酵素とカップリング反応による効率的糖ヌクレオチド供給」による糖質合成を実証でき,また(b)転移酵素研究における「酵素D類縁酵素」について実際に転移活性を確認できた.従って,今後の研究展開は予定通りに推進できる.従って,本年度は予定通り,以下について実施する.(a)合成酵素:ショ糖合成酵素とのワンポット反応用に,各種合成酵素を調製し,ワンポット反応により糖質の効率的合成を行う.H27年度に行ったリン酸化二糖については,より高い合成効率と収率を得るために条件を更に検討する.また,H27成果によりADP-Glcも供給可能であるから,これを基質とする合成酵素も対象として多様な糖質合成を実施する.(b)転移酵素:(1)酵素Dの転移反応による伸長反応は,特定の分子に対するGlc転移の結果によるものであることがH27実績を踏まえて分かってきた.しかし,特定分子の決定および酵素Dによる特定分子の認識機構については依然不明である.H28年度は,予定通り酵素Dの伸長反応のメカニズムと構造因子について引き続き解析する.また転移による生成結合特異性の改変による多様な糖質合成の可能性について,H27年度に決定したアミノ酸および周辺残基への変異導入した変異酵素を用いて検討を行う.(2) 酵素D類似タンパク質について,引き続きスクリーニング・機能解析を実施する.多ドメイン構成が予想されるタンパク質については,適宜トリミングを行い,特に酵素D相同ドメインについての機能解析を進め,自然の多様性から機能・構造相関情報を蓄積する予定である.
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