研究課題
本年度は実施初年度のため、高温環境からの新規好熱菌とそのウイルスの分離を行った。先ず新規な好熱菌のウイルスの分離のために、温泉、砂丘の植物の根などの砂や泥、河川の土壌などを多数収集し、宿主となる好熱菌をpH(酸性,中性,アルカリ性)と温度(50~90℃)の異なる条件下でペプトンと酵母エキスを主栄養素とする2%寒天固形培地(径9 cmシャーレ)を用いて分離した。その結果、60℃で生育できる好熱菌として、好酸性好熱菌1株を分離し、16S-rDNAの塩基配列の相同性検索からAllicyclobacillus属菌を、また中性域とアルカリ域からGeobacillus toebiiとG. thermolactisをそれぞれ分離・同定することに成功した。次に、これらの好熱菌を宿主として、ウイルスの分離を60℃で軟寒天培地(0.4%寒天)を用いる二重寒天分離法や液体培養法を用い,好熱菌に対する溶菌活性を溶菌斑(プラーク)の形成を指標に広く探索した。その結果、好アルカリ性好熱菌において、プラークが生じ、ウイルスの分離に成功した。このウイルスの生存に対するpHや温度の影響を調べたところ、pH 5から9までの条件下でプラークが観察された。さらにpH 8で50-90℃で1時間処理後でも生存することが確認でき,新規ウイルスの分離に成功した。一方、ある温泉から採取した水を、増殖した好熱菌のG. kaostophilusに添加し、ウイルスの分離を試みたところ、非常に明瞭な溶菌斑が出現した。しかし溶菌個所から爪楊枝で試料をとり、再度好熱菌に添加したが溶菌斑が現れなかった。これは、溶菌がウイルスの増殖によるのではなく、他好熱菌からの抗菌物質(耐熱性バクテリオシン)によるものと考えられるので、今後さらに生化学的特徴を解明する予定である。
3: やや遅れている
自然環境からの分離した好熱菌を宿主とする新規な好熱性ウイルスの分離を試み、酸性、中性、アリカリ性領域で生育できる好熱菌の生菌の分離に成功したが、それらを宿主とするウイルスの分離は、原因は不明であるが容易でなかった。好熱好アルカリ菌にウイルスを初めて見出すことに成功し、ウイルスの生育のために温度特性,pH特性を解析できたが、それらのデータの再現性をえるのが簡単でなく、時間を労することになった。また、ウイルス分離実験において、ある温泉水が好熱菌G. kaostphilusを明確に溶菌する現象を見出した。これは、新規好熱性ウイルスの分離に成功したものと考え、その溶菌が認められたプラークから、爪楊枝を用い好熱菌G. kaostphilusに塗布したところ、溶菌が認められなくなった。これは、溶菌活性を示すのが増殖をするウイルスではなく、好熱菌が生産する溶菌酵素(バクテリオシン)であることが判明したが、まったく予想外の結果であったので、その確認に時間をとり、当初計画の実験研究が遅れることになった。
今後の研究としては、さらに新規好熱性ウイルスの探索を行い、また好熱菌ウイルスの分離法の改善を図る。昨年度までに見出した好熱菌のウイルスの純化を行うとともに、電子顕微鏡観察による形態的特徴を解析する。さらにDNAシークエンサーを用いて、分離したウイルスのゲノムの解析を行う。そのゲノム情報を基に、ウイルスの分類・同定を行う。遺伝子の相同性検索からの酵素やタンパク質の遺伝子の同定を進める。その遺伝子の中から有用酵素遺伝子を大腸菌などを宿主としてクローニングし、遺伝子産物を生産・精製する。精製したタンパク質の機能を生化学的分析により同定するとともに,構造解析を行う。一方、前年度に偶然見出した好熱菌の溶菌現象についても、その詳細を明らかにしたいと考えている。まずは,溶菌活性を示す好熱菌の同定、溶菌スペクトルの分析、溶菌酵素の遺伝子クローニングによる生産、精製を行い、その応用面への展開もはかるための生化学的特徴や構造の解析を行う予定である。
すべて 2016
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Front Microbiol
巻: 7 ページ: 1-11
10.3389/fmicb.2016.00050.