研究課題
本研究(過酸化脂質の生成機序、疾病への関与機構および食品成分による抑制効果の解明)では、「動物やヒトの加齢老化、疾病における生体脂質の過酸化(脂質ヒドロペルオキシドとその代謝物の生成と分解)の機構と、病態増悪化(細胞機能修飾)の分子メカニズムを、細胞・動物・ヒト試験で解明する」、および、「食品と食品成分による生体脂質過酸化の抑制効果を細胞実験と動物試験で検討し、過酸化脂質の生成制御と疾病予防の基盤的解明を図る」、これらを目的に進めている。本年度は、我々の有している過酸化物異性体標品調製法を様々な脂質クラスの過酸化物標品の調製へと応用展開し、その方法論をほぼ確立した。また、それに合わせて、質量分析を用いた種々の脂質クラスの過酸化物の分析法開発に着手した。現在、これらの方法を組み合わせた分析により、ヒト血液での過酸化脂質の生成機序を明らかにしつつある。動物の病態組織および培養細胞を用いた解析も進めており、過酸化脂質の疾病への関与機構解明に向けて検討を進めている。他にも皮脂に特徴的に含まれているスクアレンの過酸化機構の解明を進め、皮膚での過酸化脂質の生成機構と皮膚老化・炎症の関係解明を進めている。こうした分析法の開発・生体サンプルの解析により、生体内過酸化脂質の生成原因を特定できれば、その軽減に見合う食品・食品成分を選択し活用することで、より効果的な酸化ストレスの低減が実現され、疾病予防につながると期待される。
2: おおむね順調に進展している
「動脈硬化における過酸化脂質の分子解析と分子機構の解明」では、酸化リポタンパクに含まれる過酸化脂質を網羅的に解析するため、従来のホスファチジルコリン(PC)に加えて、コレステロールエステル(CE)、トリアシルグリセロール(TG)、脂肪酸(FA)の過酸化物標準品のより一層簡便な調製法を確立した。そして、我々が開発した“アルカリ金属を用いた過酸化脂質の分子種・異性体解析”を上記の脂質クラス(PC、CE、TG、FA)への応用を達成した。これらの方法を用いて、ヒト血漿中の過酸化脂質解析を進めており、血中での過酸化脂質生成機構に関するデータが得られつつある。「メタボリック症候群(肥満症、非アルコール性脂肪肝、糖尿病、等)における過酸化脂質の分子解析と分子機構の解明」では、マウス・ラットに高脂肪食を投与し、その時の血漿および肝臓の過酸化脂質の解析を上記の方法で進めている。また、「太陽光暴露による皮脂過酸化の分子分析と分子機構の解明」ではスクアレン過酸化物異性体に着目し、皮膚における脂質過酸機構に関するデータが蓄積しつつある。以上のように当初の目的に向けて、順調に研究が進行しているため。
平成29年度は引き続き平成28年度の研究内容を継続して行う。具体的には、一連の脂質クラス(PC、CE、TG、FA)の過酸化物異性体分析法の精度向上を目指し、さらに生体の過酸化脂質生成機構の解明を進める。特に「動脈硬化における過酸化脂質の分子解析と分子機構の解明」、「メタボリック症候群(肥満症、非アルコール性脂肪肝、糖尿病、等)における過酸化脂質の分子解析と分子機構の解明」、「太陽光暴露による皮脂過酸化の分子分析と分子機構の解明」に向けて、ヒトサンプル、動物組織サンプルの解析をさらに重点的に進める。また、「食品成分による過酸化脂質の生成と蓄積の制御による疾病予防の可能性の評価」を目指し、応募者らが見出してきている過酸化脂質生成を制御できる食品成分あるいは過酸化に伴う細胞障害を抑制できる成分(アスコルビン酸、トコフェロール、トコトリエノール、カロテノイド、キサントフィル、ポリフェノール類、等)について、脂質過酸化の抑制機構に着目して研究を進める。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (24件) (うち国際学会 1件、 招待講演 4件)
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