研究課題
本研究の目的は摂食応答としての上皮細胞動態が、摂食内容の違いや間歇的絶食期間の設置などで変化するかどうか、その機構に乳酸及び乳酸産生菌が関与しているかどうか、さらに、乳酸の持つ上皮細胞増殖促進効果のメカニズムを明らかにする事である。1)本年度はマウスの短期飼育試験として、絶食後再摂食時に高脂肪食を投与したときの大腸細胞上皮の動態をしらべ、高脂肪食の再摂食では通常食の摂食の際にみられた大腸上皮一過性過増殖反応は誘導されない事がわかった。さらに、通常食マウスで絶食を行なうと、分離した大腸上皮細胞はアノイキス耐性を獲得するが、高脂肪食を長期摂取させたマウスでは絶食しても耐性を獲得しにくい事がわかり、肥満個体にみられる消化管上皮細胞の変化として重要であると考えられる。2)絶食後のマウス大腸上皮細胞の三次元培養において、乳酸、酪酸、酢酸の添加による細胞生存率の違いをコロニー数算定によりしらべたところ、乳酸添加でのみ細胞生存率がコントロールに比べて上昇し、乳酸の特異的作用が明らかになった。3)In vivoにおいて乳酸が作用しているときの大腸上皮細胞の遺伝子発現を網羅的に比較し、パスウェイ解析を行った所、Hypoxia-induced factor 1a経路に関わる遺伝子発現が認められ、この経路が活性化されている事が示唆された。このシグナル経路が乳酸の細胞増殖作用のメカニズムの一部であると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
高脂肪食摂取時の絶食・再摂食応答に違いが認められ、短期飼育試験での成果が得られた。また、乳酸のもつ細胞増殖亢進作用をin vitro実験系でも評価することができ、そのメカニズム解析を進めるための手がかりが、遺伝子発現解析から得られた。
短期飼育試験のデータを基に、長期の飼育試験に移行し、長期高脂肪食摂取による大腸上皮細胞のアポトーシス感受性がどのような機転で亢進するのか、さらに網羅的遺伝子発現とエピジェネティックな解析をくわえる。さらに乳酸とHIF1a経路の活性化に関して、マウスを用いたin vivo及びex vivo実験系を用いて解析を行う。肥満のヒト消化管検体についても収集を継続する。
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Immunology
巻: 147 ページ: 21-29
10.1111/imm.12537