研究課題
これまでの結果に基づいて、高脂肪食長期投与と、これに36時間の間歇的絶食を週一回加えた群を比較した。その結果、2群間で、摂餌量は実験期間を通して差が認められなかったにもかかわらず、間歇的絶食をおこなった群では体重増加が抑制され体重は自由摂取群の76-85%にとどまった。また、20週における間歇的絶食群の肝重量は自由摂取群の56%に有意に減少しており、体脂肪重量も減少していた。肉眼的脂肪肝の発症は、自由摂取群での100%に対して間歇的絶食群では20%と有意に低かった。高脂肪食成分の一つである遊離脂肪酸の消化管細胞への作用をIn vitroで調べた所、脂肪酸組成により細胞・ミトコンドリア傷害性に差がある事を見出した。そこでin vivoでの効果を検証するためさらに脂肪酸組成の異なる高脂肪食を考案し、これをマウスに与えた所、群間で体重増加に差が見られた。そこで、これらの餌の長期投与後のマウス大腸上皮細胞を分離し、トランスクリプトーム解析を行った。絶食―再摂食による大腸上皮細胞増殖促進作用の応用として、マウスDSS腸炎の回復期に36時間の絶食を施し36時間の再摂食後に大腸炎の評価を行った所、自由摂取マウスに比較して組織傷害の程度が軽減しており、特に大腸上皮細胞再生の亢進と組織炎症性サイトカインインIL-1beta, IL-17, IL-6の抑制が顕著であった。乳酸が上皮細胞再生を促すというこれまでの成果に基づき、この系で乳酸を大腸で遊離する餌ハイアミロースを再摂食させたところ、さらに炎症性サイトカインの低下と、潰瘍面積の低下が認められた。また、絶食群のマウスでは、Hif1αにより誘導されて細胞増殖や血管新生を誘導する乳酸結合蛋白NDRG3の発現亢進が認められ、このシグナル経路を介して乳酸が直接上皮細胞に作用している可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
計画に従って実験を進め、総カロリーといしては同様に摂取しているにも関わらず、間歇的絶食が肥満や脂肪肝など代謝症候群の予防につながる事を見出した。さらに、当初は想定していなかったが、高脂肪食であっても、脂肪酸組成の違いにより、肥満と脂肪肝発症に差が出ることが明らかとなったため、今後はこのメカニズム解析が重要となり、高脂肪食摂取マウスの大腸上皮細胞での遺伝子発現を網羅的に解析した。また、絶食とそれに伴う乳酸の効果により、急性炎症を抑制できる事を示し、さらにこの実験系で乳酸の持つ細胞増殖作用に関わると強く示唆されるシグナル経路を見出し、論文報告した。ヒト組織での検証のための症例も順調に蓄積している。
脂肪酸組成の異なる高脂肪食を作製し、長期与えたところ、体重増加、脂肪重量及び脂肪肝の形成に大きく差があった。このメカニズムを明らかにするため、脂肪組織での免疫担当細胞の解析をすすめる。さらに、大腸上皮細胞の遺伝子発現網羅的解析に基づき、蛋白発現解析による検証を行ない、高脂肪食による大腸上皮細胞の動態、代謝の変化を明らかにする。高脂肪食マウスの大腸上皮細胞の解析の結果、肥満マウスの大腸では絶食に対する応答に異常を来している可能性のあることがわかった。ヒトでは大腸手術前に絶食が必ず行なわれているため、このフェノタイプが反映されているかどうかを肥満症例と非肥満症例を比較する事によって解析可能と考えられる。そこで、ヒト大腸癌手術症例の摘出標本を用い、癌背景粘膜の免疫染色を行なう。症例は肥満・糖尿病合併例、非合併例、健常ボランティアをすでに確保している。これらの試料を用いて、組織切片の画像解析により、粘膜固有層内の上皮細胞の占める面積の割合、上皮細胞のうち分裂細胞が占める割合、粘膜固有層面積のうち増殖マーカー陽性細胞が占める割合などを算出し、肥満・糖尿病合併例と非合併例の間に差があるかどうか、また、血液生化学検査、BMI、体脂肪量との相関についても解析を進める。同様な解析を他のタンパク質、リン酸化シグナル蛋白質に対する抗体を用いて行ない、マウスで観察された結果をヒトで評価する。前年度炎症モデルで用いた、大腸で乳酸を遊離する乳酸化ハイアミロース飼料、及び脂肪酸組成の異なる高脂肪食を用い、発癌実験を行う。アゾキシメタンの腹腔内投与による大腸発癌モデルマウスに乳酸化ハイアミロース飼料群、コントロール飼料群、脂肪酸組成の異なる高脂肪食、さらにこれらに間歇的絶食の有無群を加えた実験を行う。
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