研究課題/領域番号 |
15H04506
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
山岡 裕一 筑波大学, 生命環境系, 教授 (00220236)
|
研究分担者 |
岡根 泉 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (60260171)
出川 洋介 筑波大学, 生命環境系, 助教 (00311431)
石賀 康博 筑波大学, 生命環境系, 助教 (50730256)
細矢 剛 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, グループ長 (60392536)
細江 智夫 星薬科大学, 薬学部, 教授 (10287849)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 菌類 / 病理学 / 林学 / 分類学 |
研究実績の概要 |
Hymenoscyphus fraxineusの生活環を解明するため、筑波大学菅平高原実験センター樹木園に植栽されたヤチダモを対象に、通年の野外観察、およびヤチダモの葉、枝、芽組織からの本菌の分離・培養と、特異的プライマーによるDNA検出ならびに定量PCRを行った。その結果、本菌の子嚢盤は前年に落葉したヤチダモ葉軸上で7月から9月にかけて大量に発生した。7月から10月に採取したヤチダモ生葉からは本菌のDNAが検出され、特に10月は検出量が多かった。また、生立木上でash diebackと類似した病徴は観察できなかった。以上のことから,本菌の子のう胞子がヤチダモ生葉に感染後静止状態となり、落葉期以降に増殖していると推測された。 北海道において、セイヨウトネリコ、アメリカトネリコ、ヤチダモ、トネリコ、アオダモの被害調査、ならびに本菌とその類縁種と考えられる菌の子実体発生を調査した。セイヨウトネリコでは病徴も落葉上での子実体発生も確認できなかったが、アメリカトネリコで衰弱している成木が見られた。ヤチダモ、トネリコ、アオダモでは病徴は見られなかったが、落葉上で子実体発生を確認した。子実体を採取し、そこから得た菌株のDNA解析を実施した結果、これまでのところ分離した菌は全てH. fraxineusであった。 ヤチダモとセイヨウトネリコの苗に本菌の含菌寒天を用いた有傷接種した場合、接種部周辺に病斑が形成され、両植物に対し本菌は病原性を示すことが分かった。子のう胞子の接種では、セイヨウトネリコの複葉に壊死病斑を形成したが、ヤチダモに対しては、複葉上に抵抗性と思われる病斑が多数形成され、本菌に対する反応が両植物で大きく異なった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、本年度、(1)日本におけるH. fraxineusの生態の解明、(2)トネリコ属植物の病害発生調査と菌類相調査、およびトネリコ属植物と関係するH. fraxineusとその類縁種の多様性、(3)H. fraxineusの病原性および病原毒素生産能力の評価、の3つのサブ課題を設けているが、いずれの課題もほぼ当初予定した成果を上げている。また、北海道での調査中に、外国産トネリコ属植物の病害発生調査で、次年度以降の研究のために非常に重要な材料を発見することができたことなど、予想以上の成果も上げられた。総合的に判断して、(2)おおむね順調に進展していると評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
ヤチダモ上でのH. fraxineusの生活環を解明するため、ヤチダモの葉、枝、芽より本菌に特異的なDNAプライマーを用いた本菌の検出、ならびに組織学的観察を行い、樹木内での存在形態を明らかにする。 前年度に引き続き、トネリコ属植物の発病状況を調査、H. fraxineusとその類縁種と考えられる子実体の採集、菌類の分離、ならびに分離菌の分子系統解析を行う。北海道でAsh diebackの様な病害の発生がないと思われるセイヨウトネリコを確認したため、その成木の菌類調査を行う。特に内生菌と考えられる菌類に注目し、人工培地上で対峙培養を行い、H. fraxineusに拮抗作用を示す内生菌類等の微生物を探索する。 H. fraxineusと類縁菌の接種試験を行い、トネリコ属植物の抵抗性評価を行う。また、ビリジオール等の病原毒素生産能力を検定し、病原力との関係を評価する。H. fraxineus子実体発生が確認されている筑波大学菅平高原実験センター樹木園にヤチダモ、セイヨウトネリコ等の苗を持ち込み、子のう胞子暴露試験を行い、菌の病原力と宿主の抵抗性を野外でも評価する。 また、北海道で衰弱していたアメリカトネリコについては、その後の病徴進展の調査、組織からの菌の検出を行い,本菌が関与しているか明らかにする。 ヨーロッパにおける病害発生生態調査に参加し、ヨーロッパでの生態に関する基礎情報を収集し、日本での生態と比較検討する。
|