研究課題/領域番号 |
15H04513
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
檀浦 正子 京都大学, 地球環境学堂, 助教 (90444570)
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研究分担者 |
竹内 美由紀 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任助教 (20378912)
高梨 聡 国立研究開発法人森林総合研究所, 森林総合研究所森林防災研究領域, 主任研究員 (90423011)
小南 裕志 国立研究開発法人森林総合研究所, 森林総合研究所関西支所, 主任研究員 (70353688)
高橋 けんし 京都大学, 生存圏研究所, 准教授 (10303596)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 炭素収支 / 森林炭素循環 / パルスラベリング / 安定同位体 / イオン顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本研究は、二酸化炭素が樹体にとりこまれてから放出されるまでの、時間と量を明らかにするために、炭素安定同位体ラベリングを行い、以下の3 つの方法で13C を追跡することによって炭素の移動速度と滞留時間を明らかにしてモデルに供するものである。それぞれの手法で、時間スケールの異なる追跡となる。 1) 13C 気体の分析(TDLS):数分―数か月で放出される炭素 2) 13C 固体の分析(IRMS):数年でリターとなる、あるいは樹体に固定される炭素 3)固体の中の13C 分布の観察(NanoSIMS):樹木が枯死するまで存在する炭素 常緑針葉樹(マツ)および落葉広葉樹(ブナ)の1-3m程度の苗を対象に2015年にラベリングをおこない、時系列分布を詳細にみるために3時間ないし4時間おきの高頻度のサンプリングをおこなった。2016年度は、2)葉を用いて、ラベリングで付加された13Cがどのような形で存在しているのか追跡するために構造体炭素および、非構造体の炭素にわけ(手法に関する共同執筆論文Desalme et al., 2017)、可溶性炭素(可溶性糖類・アミノ酸・有機酸)とデンプンについて同位体比をIRMSで測定した。その結果、マツでは朝固定された炭素はほぼ100%が可溶性炭素に配分され、しばらくしてからデンプンへと移動し、デンプンには一週間後でも5%程度が残されること、また夕方には、67%が可溶性炭素に配分され、6%がデンプンへと配分され、時間とともに上昇していき1週間後でも同様に7%程度が残されることが示された。ブナでは朝固定された炭素は60%が可溶性炭素に配分され、17%がデンプンに配分され、時間と共にどちらも減少していくこと、夕方固定された炭素は30%が可溶性炭素に配分され、37%がデンプンに固定され、夜間にはデンプンから可溶性炭素への移動があることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マツおよびブナに関して、ラベリング後サンプルに関して葉の炭素プールについて分画を行うことができ、非構造性炭素である可溶性炭素とデンプンについて、それぞれの同位体比を測定することができた。これらの点については、国際共同研究としても発展し、フランスでポット苗を用いてラベリングをすることで繰り返しを増やし、分画の手法を確立することができた。手法に関して共同執筆論文が発表され、当初予定した樹種とは異なるが、おおむね予定通り進んでいるといえる。さらに、マツに関しては、新しく成長した当年の葉への炭素の移動が確認され一週間程度で約30%の光合成産物が古い葉から当年葉に転流されることが示された。これらの知見をあわせて、2017年9月に行われる国際学会(IUFRO)において採択された、オーガナイザーをつとめる師部輸送に関するセッションで、発表予定である。予定通りに進まなかった点として、富士吉田サイトでアカマツのラベリングを行う予定であったが、共同研究者が椎間板を痛め、実質的に現場作業等が困難となり、実施を見合わせた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、マツおよびブナの葉のサンプルをNanoSIMSに供する。NanoSIMSにおける試料作成の際に可溶性炭素が流出してしまうという問題があり、この問題点については凍結サンプルなどで検討したが、鮮明な画像を撮影するにはいたっていない。このため非構造性炭素のうち、可溶性炭素に関してはIRMSの結果を用いることとし、NanoSIMSでは、デンプンに着目して貯蔵物資がどこに貯蔵され、利用されるのかを明らかにしていく。葉や木部組織に関して顕微鏡観察を行い、NanoSIMS用のサンプルを作成する。また、師部輸送を明らかにするため、NanoSIMS用の幹サンプルを、新たにヒノキを用いて作成する。光合成産物の樹体内移動を司る師部輸送をモデル化するための試料とする予定である。
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