琉球列島は,形成史の違いにより2つのタイプに分けられる。第四紀後期以降、海沈がなかった高島と、中期更新世以降のウルマ変動で形成され、間氷期の海進で海没したとされる低島である。高島と低島における外生菌根菌(以下菌根菌)の種組成の特徴を解明し、地史と結び付けて考察する目的で試験した。菌根菌は樹木と共生する菌であり、琉球列島の固有種「リュウキュウマツ」の根には、菌根菌が共生している。本研究では、高島・低島の同林において、土壌中の菌根菌を分析し、海没経験の有無との関係について考察した。 高島として沖縄本島、西表島、石垣島、奄美大島、低島として宮古島、多良間島、沖永良部島を調査地とした。各調査地で、土壌コア 5cm縦×5cm横×10cm 深度を50個採取した。これらから、宿主の根を取り出し、菌根の形態的特徴に基づき類別を行った。DNAを抽出してITS領域を増幅し、シーケンスによってDNA 配列を決定した。得られた配列を分けた後、BLAST検索によって種を同定した。得られた菌根菌の種組成と環境要因・地史との関係を統計ソフトのRを用いて解析した。 低島の菌根菌は高島と比べて種数や多様性が低いものの、約半数の種が共通種であった。一方、低島には動物散布種である「地下生菌」と呼ばれる菌類や子実体を作らない非風散布種の菌類が一切検出されず、風散布種のみで構成されていた。現在成立している低島の同林は1680年代以降に沖縄本島から移入されたものであり、その菌根菌群集は全て風散布種で構成されていた。これは、低島がいずれかの時代において海面下に水没し、菌根菌が全滅したためと考えられる。 全ての高島から動物散布種や非風散布の菌根菌が検出されたことから、低海水準期には、高島間や大陸との間に陸橋が形成されていたと考えられる。そのような菌種が現在も生き残っていることは、移入後に海没がなかったことが示唆される。
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