研究課題
1980年代以来、奥羽山系試験地(カヌマ沢渓畔林)および阿武隈試験地(小川植物群落保護林)では、基本的なプロットのデザインを共有しつつ種子生産量/落葉量を測定するトラップ調査を行ってきた。本年度は、カヌマ沢渓畔林での25年間(1990~2015)の開花量と種子生産量のデータのコンパイルに主に時間を割いたほか、昨年度に奥羽山系試験地で実施した1cm毎木データを整備し、解析を実施した。奥羽山系試験地では直径1~5cmクラスの稚樹約3700本のデータが得られ、これを用いて稚樹の分布パターンを決定する要因として地表の微地形と林冠構造のどちらがより重要なのか検討した。L関数を用いた空間分布解析を行った結果、いくつかの樹種では特定の微地形に稚樹が偏って出現していたこと、また稚樹の分布自体が集中分布を示したことから、分布には何らかの傾向があると考えられた。つぎに母樹からの種子散布の偏りを組み込んだ点過程モデルを用いて、光条件を規定する周辺林冠の構造に依存した稚樹分布を想定した林冠構造モデルと、河川撹乱がもたらす微地形構造に依存した稚樹分布を想定した微地形モデル、および両者の効果を組み込んだ混合モデルをつくり、シミュレーションによって得られた信頼範囲と実データを比較した。その結果、データを最もよく説明していたのは、多くの樹種で微地形モデルか混合モデルであった。以上より、奥羽山系試験地の稚樹の分布には、どちらかというと林冠構造より土壌環境に影響する微地形のほうが強く作用していると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
1cm毎木データについては、予定通りデータのエラーチェックが完了し、スムーズに解析にとりかかることができた。解析は当初は手探り、記載的なものを覚悟していたが、実際には本データセットに適した統計解析パッケージを見つけることができ、それを用いて当初予定以上の進捗があったと考える。一方、種子トラップデータについては、エラーチェックが完了せず、当初より遅れている。これは、今まで諦めかけていたエラーがかなり修正できる見込みが出てきたこと、また近年の測定手順の変更に伴ってデータ構造を変更する必要が生じたためであり、データセットの質はその分、向上と考えている。
トラップデータの解析アイディアを思いついたので、それを試す。そのために今年度は、追加実験のための花を重点的に採集し、ここで得たデータをトラップデータにリンクさせる。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件)
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